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雨と風とで視界はひどく悪かった。テレビカメラが真っ先に教えてくれたのは、昨ツール総合2位ジャンクリストフ・ペローの脱落だった。若きチームメートのロメン・バルデもやはり遅れた。同集団には四強のナイロ・キンタナの姿も確認された。当然ながらアレハンドロ・バルベルデも一緒だったし、一昨年3位ホアキン・ロドリゲスも苦しんでいた。しばらく後には、マイヨ・ジョーヌのローハン・デニスもが分断にはまっていることが発覚する。イタリアンチャンピオンジャージのヴィンチェンツォ・ニーバリと、フランス期待の星ティボー・ピノさえも、第2集団で必死にペダルを漕いでいた!
数々の証言によれば、分断が発生した最大の理由は……、なんとナセル・ブアニであるという。ゴール前45kmのロータリーで、フレンチスプリンターは、ヤコブ・フグルサングを無理に追い抜こうとした。そのまま地面に滑り落ち、数人がなぎ倒された。ペローとバルデは転び、ニーバリを含む大部分の選手は落車こそ避けられたものの、痛い遅れを喫した。
ニーバリ集団とキンタナ集団はいつしか合流し、65人ほどの大きなプロトンとなった。ニーバリやピノー自らが先頭に立ち、前を行く25人を追いかけた。しかし先頭集団とのタイム差は一行に縮まらないどころか、むしろ広がっていくばかり。
先頭集団には絶対に追いつかれたくない3つの理由があった。1)カヴェンディッシュ、グライペル、ペーター・サガンは、後方のスプリンターに追いつかれることなく、小集団スプリントで区間勝利を争いたかった。2)コンタドールとフルーム、加えてティージェイ・ヴァンガーデレンは、後方の総合ライバルたちからできる限りタイムを奪っておきたかった。3)前日2位のマルティン、3位カンチェラーラ、4位トム・デュムランは、後方のデニスをできる限り突き放してマイヨ・ジョーヌを手に入れたかった。
25人・8チームの利害関係は、それでも、完全に一致したわけではない。集団内では小さな駆け引きが繰り返された。たとえば先頭に6人送り込むことに成功したBMCは、マイヨ・ジョーヌのデニスが遅れているからという理由で、積極的な集団牽引には加わらなかった。……と、少なくともコンタドールは考えていたようだ(そして不満に思っている)。たとえばエティックスは、「3人もスプリンターが残ってるから、カンチェラーラのボーナスタイムを取りはさすがに難しいだろう」(マルティン、チーム公式リリースより)と、ラスト5kmでカンチェラーラへの警戒を解いた。
……しかし、現役選手としてはマイヨ・ジョーヌ着用日数ナンバーワンを誇る王者の、黄色へのこだわりを甘く見ていたようだ。初日個人タイムトライアルで3位に終わった直後に、加熱しすぎた頭に水をかぶりながら、「本当はマイヨ・ジョーヌ着用30日まで伸ばしたかったんだけどなぁ」とカンチェラーラが漏らした本音を、聞き逃してしまったのだろうか。
「誰かを倒そうと考えていたわけじゃなくて、ただひたすら、黄色へと突き進んだ。サガンの後ろに入り込んで、待って、待って。それから突如として、彼らはスピードを上げた!まだまだフィニッシュまでは遠かったのに!とにかく先頭の選手との距離を出来るだけ縮めるよう、そしてマルティンとの距離をできるだけ開くようにがんばった」(カンチェラーラ、公式記者会見より)
長すぎるスプリントの果てに失速したカヴェンディッシュ(4位)と、コンタドールのために大いに力を尽くして少々疲れ気味のサガン(2位)の間に、カンチェラーラはまんまと入り込んだ。区間3位に入り、ボーナスタイム4秒を手に入れた。つまりは総合でマルティンを3秒突き放し、自身29枚目の黄色いジャージを堂々と手に入れた。そして「想像さえしていなかった」ジャージ獲得劇にあまりに感激したものだから、カンチェラーラはめっぽう長い記者会見を開いた。
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