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ラスト1kmのアーチをくぐり抜けた瞬間だった。トニー・マルティンは前から12番目を走っていた。ふと、目の前を走るブライアン・コカールの後輪に、軽く接触した。体が大きく揺れ、右隣のワレン・バルギルと衝突した。その勢いで前転する形で投げ出された。地面に座り込んだマイヨ・ジョーヌは、複数のチームメートが見守る中、沈痛な面持ちで左腕を抑えていた。
「何が起こったのか、正確には覚えていないんだ。チームは僕を好ポジションへと上げてくれた。最後の1kmに入ると、もはや誰1人として高速で走り続けるエネルギーを残していなかった。全てがスローダウンして、誰もが待ちの姿勢に入って。そして僕は落車した。比較的スピードが遅めだったから、全体重が左肩にのしかかった。すぐに、何かが壊れたな、と感じたよ」(マルティン、チーム公式リリースより)
その一方で、チームメートの1人が、集団の最前列に飛び出した。上り坂で苦しんだマーク・レンショーに代わって、マーク・カヴェンディッシュの牽引役を務めていたゼネック・スティバールが、ひどくおおぶりなダンシングスタイルでアタックを仕掛けた。
「カヴを前に引き上げるために牽引していたんだけど、彼が少し苦しんでいるのが見えた。その時点で僕は、ヴァンアーヴェルマート、サガン、クリストフの背後を走っていた。彼らにはアシストが残っていなかった。そこで思いついたんだ。今もしも僕が行けば、僕とのギャップを縮めに走る選手が必ずいるはずだし、その選手はスプリントを落とすに違いない、と。もしくは、誰も追いかけてこないかもしれない、とも。だから一か八かで、僕は全力を振り絞った」(スティバール、チーム公式リリースより)
2番目の読みが、ズバリ当たった。取り残されたスプリンターたちは、誰も追走の責任を果たそうとはしなかった。「本日の優勝候補」ペーター・サガンの斜め後ろにひっついて、様子見を繰り返すだけ。その間に、悠々とスティバールは天に両手を突き上げた。シクロクロス世界選手権で3勝をもぎ取ってきた強者の、ツール・ド・フランス初の区間勝利だった。
「気持ちが入り交じっている。区間優勝はしたけれど、マルティンが落車した。表彰式の前に彼に会った時、彼はただ僕を祝福してくれた。そして『この瞬間を楽しんで』って言ってくれた。怪我の状態がどの程度なのか、一言も言わなかった。それでも、ツール・ド・フランスで区間を勝てたことについては、素晴らしい気分だよ。シクロクロス世界選手権で初めて優勝した時と同じくらい素敵だ」(スティバール、公式記者会見より)
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