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坂道で真っ先に仕掛けたのは、ロメン・バルデだった。ピノと同じ1990年生まれの24歳もまた、大会前はフランス期待の星だったのに、総合争いを失敗した1人だった。酷暑のピレネーでは、ひどい体調不良に悩まされた。しかも所属チームのAg2rは、第8ステージで区間勝利を手にしていたけれど、むしろその後は悪夢の連続。通算13回もの大きな落車に巻き込まれ、2人がすでに途中棄権していた。
バルデは3度、アタックした。追いつかれても、執拗に加速した。ゴール前3kmでついに単独先頭に立った。しかしピノも負けてはいない。Ag2rのライバルが攻撃するたび、先頭に立って集団を引き戻した。そしてゴール前2.6kmで単独追走体制に切り替えると、頂に到達するほんの直前に、バルデに追いついた。
バルデvsピノ。フランス全国が「将来のツール総合優勝候補」の対決をわくわくと見守った。ところが2人が得意とする上りが終わり、平坦な、いや、むしろ軽く下り基調のパートに入ると、両者は途端に互いの様子見を始めた。まだゴールまで1.4kmも残っていたというのに。
「ロメンと顔を見合わせてしまった。おのずとスピードは落ちた。すぐに協力し合うべきだったのにね。でも騒音がすごくて、誰かが後ろから追いかけてくる音なんて、まるで聞こえなかった」(ピノ、ゴール後インタビューより)
「ティボーだけをひたすら警戒していた。スプリントに全力を注ぐつもりだった。実はフィニッシュの地形を知らなかったし、ここに下見に来たこともなかったんだ」(バルデ、ゴール後インタビューより)
またAg2rの監督が後に指摘した通り、テレビ中継は、バルデ&ピノとメイン集団のみを交互に映し出していた。そのほかの部分で何かが起こっていたなんて、チームカー内でテレビやレース無線を頼りに展開を追っていた監督も、テレビ画面に釘付けになっていた世界中のファンも、まるで知らなかった。誰も気がつかないうちに、誰も予想さえしていなかった選手が、フラムルージュ直前につむじ風のように2人を追い抜いた。「後ろで苦痛に顔をゆがめていた」(byピノー)はずの、カミングスだ!!
「自分が集団内のベストヒルクライマーじゃないことくらい分かっていた。だから雰囲気に飲み込まれぬよう、周りに合わせて無茶しないよう心がけた。上りさえ終われば、僕向きのファイナルが待っていることを知っていたから。僕は体重が少し重いから、ピノやバルデに対してアドバンテージがあると考えていた。しかも2人は協力体制になかった。だからピノが少しカーブでまごついているうちに、アタックした。コーナリングの上手さは僕の長所の1つ。トラック経験のおかげさ。僕のパワーさえあれば、彼らはきっと追いついてこれないと確信していた」(カミングス、公式記者会見より)
上りを知らなかったバルデに対して、カミングスは2010年パリ〜ニースで上りを1度体験していたことも大いに役立った。なによりネルソン・マンデラ・デーを迎えるに当たって、ステージ前に特別ミーティングを開き、スペシャルヘルメットをかぶり、モチベーション高くレースへと走り出していた。
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