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「1日中、後輪に張り付いているわけには行かないからね。僕は、自分の行くべきタイミングを、自分で選んだ」(デュムラン、公式記者会見より)
デュムランがひたすら待っていたのは、ゴール前1.8kmの、石畳坂の到来だった。
「今朝のチームミーティングで、話は聞いていた。僕らにチャンスあり、と。フィニッシュの地形は本当に僕向きだったからね。いわゆる『パワーハウス(人間発電所)』的なフィニッシュだった」(デュムラン、公式記者会見より)
2010年パリ〜ルーべ「ジュニア部門」3位のローソン・クラドックと、2015年パリ〜ルーべ「エリート部門」覇者デゲンコルブに引かれて、赤ジャージは一気に前線へと競りあがった。昨季のE3ハーレルベーケでパヴェの激坂巡りをたった1度だけ体験したことのあるバルベルデは、がたがたの上り途中で、あっけなく追い抜かれた。頼もしい2両編成の背後でトップスピードに乗ったデュムランは、ついには、石畳の道でアタックを仕掛けた!
他のグランツールライダーと同じように、4月のデュムランは「アルデンヌ派」であり、決して「石畳派」ではない。ツール・デ・フランドルは過去1度だけ出走し(2011年)、途中リタイアしている。しかし、スペインやイタリアで生まれ育った軽量級ヒルクライマーと比べれば、オランダの大地で鍛え抜かれたパワー系ルーラーには、どうやら一日の長があった。たった1人だけ後輪に飛び乗ってきた以外は――興味深いことに、石畳とはまるで縁のなさそうなダニエル・モレノだった――、すべての選手が一瞬で置き去りにされた。
「石畳では苦しんだ。リズムをつかむのが難しかったけれど、幸運にも、あそこで苦しんだのは僕だけじゃなかった」(ホアキン・ロドリゲス、チーム公式HPより)
快走するマイヨ・ロホの、数十メートル後ろでは、ぎこちないダンシングでアルが追いかけていた。最終数百メートルはアスファルトの舗装道路に戻るも、一旦開いた距離は、もはや縮まらなかった。デュムランとモレノがフィニッシュラインを越えた3秒後に、アルとドメニコ・ポッツォヴィーボが努力を終えた。他の総合トップ10ライダーたちは、さらに6秒遅れてゴールへとたどり着いた。
「この3秒が何かの役に立つかどうかは分からないけれど……。明日どうなるのか、まあ見て行こう」(デュムラン、公式記者会見より)
普段より言葉少なめだったデュムランと、アルとのタイム差は、3秒から6秒へと開いた。総合トップ10圏内では、タイム差こそわずかに上下したものの、順位に変動はなかった。
それにしても、自転車史上でもまれに見るほどの接線が繰り広げられている。1989年ツール・ド・フランスの8秒差、1948年ジロ・デ・イタリアの11秒差、2011年ブエルタ・ア・エスパーニャの13秒差……。第20ステージは、事実上、2015年ブエルタ総合争いの最終日だ。1級峠を4つ上り、4つ下る。肉体的にハードでありながら、しかもテクニカルなコースが、歴史的なラストバトルを演出してくれるに違いない。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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