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サイクル ロードレース コラム 2016年3月22日

【ミラノ〜サンレモ/レビュー】ゴール直前で落車発生。混乱のスプリントを制したのはアルノー・デマール(FDJ)

サイクルNEWS by 寺尾 真紀
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イタリアのスポーツ紙、ガゼッタ・デロ・スポルト(同紙はRCSスポルトとともに、ミラノ〜サンレモを主催している)は、クラッシュ後のチプレッサの上りで、デマールがチームカーにつかまりながら走っていた、とするマッテオ・トザット(ティンコフ)とエロス・カペッキ(アスタナ)のコメントを紹介した。ガゼッタ紙は、デマールがチームカーの窓枠につかまっていた(いわゆる『魔法のじゅうたん』疑惑)か、監督が差し出すボトルにつかまっていた(いわゆる『くっつくボトル(sticky bottle)』疑惑)かは判らないとしながらも、チプレッサの前には完全に集団から千切れていたデマールが、チプレッサの上りの途中、ほぼ2倍のスピードで自分たちを追い越していった、とトザットがコメントし、カペッキも同様に、「デマールは時速80km/hでチプレッサを上っていった」とコメントしたとしている。 (※ どちらの選手も、その後追加のコメント等は発表されていない)

チームカーを運転していたFDJのチーム監督、フレデリック・ゲドンは、英国のウェブメディア(cyclingnews.com)の問い合わせに対し、チプレッサの上りでデマールに併走し、ビドン(ボトル)を渡したことは認めながらも、チームカーからペースアップを助けるという違反行為については、完全に否定した。数珠つなぎになった車列の真っ只中で、チームカーを使い、ハイスピードの牽引を行うことなど不可能だった、とゲドンは言う。

フランス2(TV局)のインタビューを受けたデマールは、以下のようにコメントした。 「その騒動については耳にしたよ。負けて悔しいからじゃないかと思う。クラッシュのあと、すぐ近くにはコミッセールのモトが走っていたし、チームカーに牽引されたら処罰の対象になることはよくわかっている。ブエルタでのニバリの件を忘れたりしないからね。自分にとって最大の勝利をおめおめ失うようなリスクを侵したりはしない。真実は、弱冠24歳のフランスの若造がヴィア・ローマで勝利をあげたことが悔しかった、ということだと思う。(中略)僕はこの勝利のすべてを、ペダルのストロークで稼いだんだ」

フランスのレキップ紙とのインタビューでも、集団復帰をする際、同じ落車に巻き込まれたマシューズとともにチームカーを風よけには使ったが、それ以上の違反行為は行っていない、と再度疑惑を否定している。

騒動の収束のためには走行データを公開するべきだ、という声の高まりもあり、レース直後に非公開にされた(このことも疑惑を深める一因となった訳だが)デマールのStravaのデータが公開された。

チプレッサの上り区間(5.65km)でのデマールの最高速度は52.2km/h(※)。上り区間でのデマールの平均速度は37.7km/hで、これはチプレッサの頂上付近でアタックしたヴィスコンティの記録を上回り、StravaでもKOM(区間最高記録)を獲得している。ケイデンスについては、クラッシュ時以外に、ケイデンス0の時間が存在するが、これはチプレッサの上りが始まる前に起きたことだった(これが下りだったためか、誰かの後輪につけていたためか、牽引、あるいはドラフティングがあったためかはわからない)。ただ、ボトルで牽引される場合には(車の窓枠につかまって牽引される場合と異なり)ある程度のペダルこぎが必要であるいう指摘もあり、チプレッサの上りでペダルを回していない区間が見当たらない、ということは、イコールボトル牽引がなかったことの証明にはならない、という指摘もある。

(※ オリカ・グリーンエッジのサイモン・イェーツは、チプレッサの頂上付近での走行スピードについて、チームカーの後方を走行していたときの自身のスピードは54.2km/hだったとSNSでコメントしている。ヴィスコンティと共にアタックしたクラシック・スペシャリストのスタナードについては、Stravaを使用していないため、比較するデータがない。)

デマールはもともとパワーや心拍のデータを公開しておらず、今回公開された中にも、それらのデータは含まれていない。チプレッサの区間についてだけでもこれらのデータを公開するべきではないかという声ももちろんあるが、例えすべてのデータが信憑性の範囲内だったとしても、どんなデータには解釈の余地があり、疑惑が払拭できるかはわからない。

チプレッサにはある程度のギャラリーもいたはずと思われるが、デマールのボトル牽引についてのコメントや写真は見つかっていない(※)。また、デマールが完全に孤立していなかったとすれば、周囲の選手やチーム関係者の目もあっただろう。にもかかわらず、自分もデマールの違反行為を目撃した、と名乗り出る選手は、その後現れていない。

(※ 『チプレッサでデマールがボトル牽引を受けた動かぬ証拠!』との説明で、イタリアのウェブメディアによりSNSにアップされた写真は、チプレッサで撮影されたものではなく、被写体もデマールではなかったことが後に判明している)

それでも、選手仲間や関係者からの信頼も厚いベテラン選手が、「母国が誇るモニュメントでフランスの若造が勝ってしまったのが気に入らない」という理由でこういった証言をするともなかなか考えにくい。

ブエルタのニバリのように、動かぬ証拠があったとすれば別だが、今回の騒動においては、違反行為が起きたという、逃れようのない証拠はない。すべてが解釈の範囲内だ。同時に、もし違反行為がなかったとすれば、疑いをかけられた当の本人にとっては、とてつもなく不運な状況と言える。自転車レースに限らず言えることだが、何かが『起きなかった』ことを疑いの余地なく証明することは、とてつもなく困難なことだからだ。

残念ながら、今回の騒動について、誰もが納得する結論が出ることは難しいだろう。デマール自身は、この騒動が勝利の喜びを減らすものではない、としている。しかし、300kmにわたって繰り広げられた、この美しいスリリングなドラマは、ゴールのその先で、すっきりしない、少し後味が悪いものになってしまった。

代替画像

寺尾 真紀

東京生まれ。オックスフォード大学クライストチャーチ・カレッジ卒業。実験心理学専攻。デンマーク大使館在籍中、2010年春のティレーノ・アドリアティコからロードレースの取材をスタートした。ツールはこれまで5回取材を行っている。UCI選手代理人資格保持。趣味は読書。Twitter @makiterao

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