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シーズンの終わりを飾る「落ち葉のクラシック」、ジロ・ディ・ロンバルディア。レース終盤、狙い済ましたアタックを成功させて、マーティンは勝利をもぎ取った。ジロ・ディ・ロンバルディアも、ワンデー・クラシックの最高位に並べられる、5大モニュメントの一つ。マーティンが少年時代にこよなく愛したのも、リエージュとロンバルディアだった。
ガーミン・チポートレ(2008年 ツール・ド・フランス)
アンダードッグ("underdog")という言葉を聞くたびにぱっと脳裏に浮かんでくるのが、ワイルドカード(招待枠)を獲得し、2008年のツールに出場した、ガーミン・チポートレ というチームである。
※ 現在はキャノンデール・プロサイクリングチームと呼ばれるこのチームに、小さく無名だった頃の面影はほぼありません。その根底にあるスピリットはどうであれ、少なくとも外面的には、アンダードッグ、という形容とはほぼ対極のビッグ・チームへと成長しています。アンダードッグ、という表現については、2008年ツール出場当時のチームについての言及であると、どうぞご理解ください。
このチームのはじまりは、元プロロード選手のジョナサン・ヴォーターズが、私費5万ドルを投資してコロラド州に立ち上げた、育成チームまでさかのぼる。ヴォーターズが現役選手だった90年代から2000年代前半は、まさにドーピングの全盛期だった。夢と不正の選択を迫られ、自身もドーピングを行った後悔から、彼には一つの決意があった。ドーピングのない、クリーンなチームを作り上げて、最高峰のレース、ツール・ド・フランスに挑戦すること。どんなレースもクリーンに勝ちうるものなのだということを、ロードレースを愛するすべての人たちに示すこと。
投資家の支援を受け、まずチーム独自のドーピング対策(血液モニタリングプログラム)を採用したヴォーターズは、2008年ツール・ド・フランスのワイルドカード(招待枠)を視野に、チームの補強を始めた。いわゆる、華やかなスター選手を集めたチームではない。多くは、長くキャリアを積んできたベテランだ。パリ〜ルーベとツール区間で優勝経験のある、マグヌス・バクステッド。英国TT王者だが、TT世界選のタイトルをドーピング違反で剥奪された過去を持つ、ディヴィッド・ミラー。長年ドメスティック(アシスト)としてエースたちのために働いてきた、クリスチャン・ヴァンデヴェルデ・・・
プロ・コンチネンタルチームとして2008年をスタートしたチームは、カタールやカリフォルニアなど、行く先々のレースで快進撃を見せる。続く春のクラシックでもロンド(ツール・ド・フランドル)、パリ〜ルーベで好成績を残し、欧州でフルのレースプログラムをこなすのは難しい、という資金面の苦境にも関わらず、目標にしていたツールだけでなく、もう一つのグランツール、ジロの招待枠も獲得した。
7月5日、フランスのブレストから初めてのツールに乗り出したガーミン・チポートレは、3週間後、バクステットを欠いた8人で、パリのシャンゼリゼにゴールする。故障続きでチーム加入前には現役引退さえ考えていたヴァンデヴェルデが総合4位に入り(4ステージでトップ10、2回の個人TTでトップ5)、他にもウィル・フリッシュコーンが区間2位、ダニー・ペイトが区間3位、ミラーが個人TT3位と、チームTT優勝とマリアローザ着用を達成したジロの再現こそ叶わなかったが、堂々たるツールデビューを果たした。
コロラド出身の小さな無名チームが、ロードレース界という巨人にパンチを繰り出したような、そんな7月だった。
"アンダードッグ"としてスタートしたガーミン・チポートレが、ツール・ド・フランスで初の区間優勝をあげるのは、それから3年後、2011年のことになる(このときには、チームはサーヴェロ・テストチームと合併し、ガーミン・サーヴェロという名前になっていた)。レ・ゼサールのチームTTでベストタイムを叩きだした9人は、チームにとって初めてのツールのポディウムに、ヴォーターズを担ぎ上げた。ヴァンデヴェルデ、ミラー、ディーン、ヘシェダル、ザブリスキー、ファラーら、2008年から同じ夢を目指してきた選手たちの笑顔が、ヴォーターズを囲んでいた。
寺尾 真紀
東京生まれ。オックスフォード大学クライストチャーチ・カレッジ卒業。実験心理学専攻。デンマーク大使館在籍中、2010年春のティレーノ・アドリアティコからロードレースの取材をスタートした。ツールはこれまで5回取材を行っている。UCI選手代理人資格保持。趣味は読書。Twitter @makiterao
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