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「トムから『今がアタックするタイミングだ。もし君が行くなら、僕ら追走しないから』って言われた。でも、すぐには、動けなかった。そうしたらチームメートのピムが、声をかけてきた。『一緒に飛び出さないか』って。そして2人で飛び出したのさ」(ウェレンス、ゴール後TVインタビュー)
オランダを抜けだしても、オランダ語同盟の連帯は強かった。2日前の誕生日アタックは実を結ばなかったティムは、ピムとトムのありがたい言葉に従って、ゴール前72kmで飛び出した。トレック・セガフレードのローラン・ディディエと、当然ながらリヒハルトを伴って。タイム差は再び3分差に達していたけれど、ほんの10kmほど走っただけで、簡単に逃げ2選手に追いついた。
約束通り、デュムラン親衛隊が制御するメイン集団は、追いかける素振りさえみせなかった。おかげでウェレンス含むエスケープ集団は、みるみるリードを開いていく。ゴール前35kmで、最大9分ものタイム差を許された。
エネコ・ツアーで総合2連覇を飾り、昨秋はカナダのGPモントリオールを制し、この春にはパリ〜ニース最終ステージでアルベルト・コンタドールやリッチー・ポートも破っている(といってもウェレンスだけは大逃げの果てに)。しかし、25歳の血気盛んなルーラーは、「飛び出しは多いけれど、タイミングが早すぎる」と批判されることも多かった。この春はアムステル・ゴールドレースとフレーシュ・ワロンヌで飛び出し、吸収され、本人も「ちょっと慌てすぎた。もっと我慢しなきゃ」なんて反省のコメントを出したほど。
この日はラスト15kmまで待った。つまりフィニッシュへと続く2級ロッカラーゾの勾配に、飛び込んだ直後だった。全力を尽くしたリヒハルトは脱落していき、ディディエが加速を仕掛けた。ビゾルティとズパがすぐに反応する一方で、ウェレンスは脊髄反射はしなかった。後方で様子をうかがい、さらには道路を反対側から、3人を静かに眺めた。ライバルたちの脚の状態を、今一度、確認するかのように。そして、目の前を走るオートバイのスリップストリームを拝借すると、そのまま単独で飛び出した。タイミングは完璧!
孤独に上り詰めた山の頂では、歓喜の時が待っていた。観客にたっぷりと投げキッスを振りまき、フィニッシュラインでは両指でハートマークをアピール。そしてラインを越えた直後に……、なんと自転車を頭上へ高々と持ち上げた。ロット・ソウダルの区間2連覇に貢献した自転車を、まるで称えるかのように。前代未聞のパフォーマンスはまた、後続を大きく突き放して独走勝利を決めた者の、特権なのかもしれない。
後続がフィニッシュラインへたどりついたのは、1分19秒後。やはりラスト15km地点でメイン集団から抜け出してきた、ヤコブ・フグルサングが2位に滑り込むことになる。
山に入った途端に、アスタナが隊列を組み上げた。強烈なテンポを刻み、そしてフグルサングを前方へと発射した。総合で35秒遅れの危険人物が飛び出せば、チーム ジャイアント・アルペシンはどうしてもスピードアップに着手せざるをえない。そんな目論見通りに、デュムランの数少ない山岳アシスト2人は、集団先頭で追走を始めた。
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