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もっとも危険分子だったのは、2007年欧州選手権ジュニア個人TT王者イルヌール・ザッカリンだ。前ステージ終了後には、総合でわずか23秒差の2位につけていた。しかも11.6km地点での第1計測地点では、首位から+18秒と、素晴らしいスタートダッシュを成功させていた。しかも最終走者のブランビッラが第1地点で+44秒だった時点で、「暫定」ピンクにさえ輝いていた。
ところが、である。濡れた路面で、ロシアの長身はバランスを崩し、アスファルトに転がってしまった。急いで走りだしたが、しばらくしてから、自転車の不備に気がついた。慌ててバイクを交換するも、途切れた集中力とスピードを取り戻すのは、簡単なことではなかったはずだ。さらには、なんとか被害は最小限に食い止めた……と思ってたどり着いたフィニッシュまで300m手前のUカーブで、その他大勢の選手にならって、滑り落ちてしまう。
「なにも言うことはない。心の底から失望している。こんな不運に襲われるとは予想さえしていなかった。調子はすごく良かったし、力強い走りがしたいと思っていたのに。なのにたったの1日で、落車2回にバイク交換1回。あんまりだよ。怪我もした。左足に、お尻に、それからヒザの周り。早く回復させたいと願ってる」(ザカリン、チーム公式HPより)
自爆したザカリンの背後を、ブランビッラは賢く走った。「最初から全力で飛ばさないこと」「後半にパワーを温存すること」「リズムを崩さず走ること」、こんな個人タイムトライアルの鉄則をきっちり守り切った。だから第1計測地点で大きく遅れた後の、タイム損失曲線はずいぶんと緩やかだった。最終的にはログリッチェから2分05秒遅れの53分50秒でフィニッシュ。いまだに総合タイムではあらゆる選手をリードしていたし、なによりチームメートのユンゲルスを、ほんの1秒だけ上回っていた!
「難しく、テクニカルなコースだった。でも全てを無事に終えることができて、本当に満足している。スタート前はリラックスしていたし、自信もあった。全力を尽くしつつ、安全にも気を配った。あと少なくとも1日には、マリア・ローザを着て走ることができるなんて、本当に嬉しいよ」(ブランビッラ、チーム公式リリースより)
ブランビッラとユンゲルス。つまりエティックス・クイックステップが総合上位2位を独占した状態で、2016年ジロは2度目の休養日を迎える。いわゆる総合本命の中ではクルイスウィクが総合4位51秒差で最も上位につけ、ニーバリ5位53秒差、バルベルデ6位55秒差が極めて僅差で追いかける。第8ステージで大きく遅れたデュムランも、総合7位58秒差と総合戦線へあっさり復帰を果たした。さらにランダ8位1分18秒差が続き、総合9位以降(マイカ1分45秒差)は少々遅れが広がった。
それにしても、今大会はいまだに、頭ひとつ抜けだした選手が存在しない。誰が最終的にマリア・ローザを着ているのか、まるで見えてこない。きっと1週間後の、3度目の休養日に入る前には、状況はよりクリアになっているだろう。この週の終わりには、ジロ一行はドロミテに突入する。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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