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【Cycle*2024 フレーシュ・ワロンヌ:プレビュー】唯一絶対の勝負地「ユイの壁」を4回、誰が真っ先に上り詰めるのか
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「でも、2kmほど走っただけで、悟ったんだ。自分の調子が悪いことを」(ピノ、ゴール後TVインタビューより)
なにも起こらない状況の中で、ただピノだけが、ずるずると遅れていった。1年前にはラルプ・デュエズを勝ち取り、今年に入ってからはツール・ド・ロマンディでキンタナに次ぐ総合2位の座を仕留めた。しかも苦手の下りを克服した26歳は、決して得意ではなかったはずのタイムトライアル能力を、今シーズン大きく伸ばした。ロマンディのTTを勝ち、6月にはTTフランスチャンピオンに輝いた。だから今年こそ、ベルナール・イノー以来36年ぶりのフランス人マイヨ・ジョーヌが誕生するかもしれない、とフランスファンを喜ばせた。
「全てがおじゃんだ。シーズンこれまでの準備が、ほとんど、泡となって消えてしまった。本当にたくさん準備してきたのに。ツールというのは1年かけて準備する大会であり、しかも数年前から、この準備を繰り返してきた。でも、去年と同じように、最初の山岳ステージで、目標がダメになった」(ピノー、ゴール後TVインタビューより)
最初の難関山岳ステージでは、誰が総合を勝てるのかは見えてこないが、誰が勝てないのかは見えてくる……とは、しみじみ真理を言いあてた表現である。ピノはこの日、総合ライバルたちから、3分04秒を失った。
その後いくつかの小さな飛び出しが試みられた。いずれも決定打には程遠かった。ピノのいない有力者集団は、ほぼひとつの塊になって、フィニッシュへと突き進んでいた。……ところが、ラスト1kmにちょうど差し掛かったところで、フラム・ルージュ(ラスト1kmの赤い旗)を示すエアアーチが、崩れ落ちていた!
自転車を担いで跨いだり、隙間を潜り抜けたりして、選手たちはどうにか前に進もうともがいた。アダム・イェーツはバイクをひっかけて、転倒した。幸いにもパニックはすぐに鎮められた。審判団もすぐに、巻き込まれたすべての選手たちに、「タイム救済」の適応を決めた。ちなみに、この場合ゴールタイムは、ゴール前3km地点の走行位置で決定される。そして皮肉にもその時点で少しだけ飛び出していたイェーツが、ジュリアン・アラフィリップから、わずか1秒差で新人賞マイヨ・ブランをむしり取ることになった。
気になるのは、空気が抜けた理由。当初は妨害行為か?との噂が駆け巡った。ただし開催委員会の調査結果によれば、観客の不注意による単なるアクシデントであるとのこと。なんでも観客の1人がフラムルージュの脇を通る際に、アーチを止めているピンに引っかかった。4本ある脚の一つが送風口から抜け、その風に煽られる形で脚が空へと跳ね上がり、アーチ全体のバランスが崩れてしまったようだ。
フルームは「スチューピッドな事故」と笑い飛ばし、スカイのマネージャー、ブレイルズフォードも「空気が抜けたと言えば、まあレース自体も気が抜けてたけどね」なんて気の利いた冗談でニヤリとした。幸いにも大きな事故にはつながらなかった。おかげで198人の選手が、無事にツールを走り続けている。しかも開幕から1週間たっていまだ1人の棄権者さえ出ていないというのは、113年の長い歴史を誇るツール史上、初めての記録である。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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