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「ニーバリに追いつかれるかもしれない、と怖かった。もしかしたら、彼を待って、後ろに張り付いて、最後にスプリントで破った方がいいんじゃないか……とさえ悩んだ。恐ろしい気分だった。マルコ・パンターニのようなやり方で、背後から抜きさられるんじゃなかろうかと、常にビクビクしていた」(カミングス、公式記者会見)
……1年前の第14ステージでは、ピノとロメン・バルデのお見合いの隙をついて、自分こそ凄まじい追い抜きを見せたくせに!
とは言うものの、カミングスの心配はもっともである。現にそこからのニーバリは、追走を牽引し、片手では足りないほどの急加速を繰り返した。総合争いは後輩ファビオ・アルに譲ったけれど、誇り高き王者は、自らの勝負も決して諦めていなかった。しかし、ジロからの連戦で、「精神的には無問題だけど、肉体的にきつい」状況だった。何度加速しても、カミングスの背中さえ捕らえられない。それどころかナバーロやダリル・インピーに、最終的に置いてけぼりにされてしまうのだ。
「アスパンの終盤はひどくきつかった。ずっとカミングスを追いかけ続けた。でも、登り前半で、あまりに体力を消耗しすぎた。ひどく疲れていた」(ニーバリ、ゴール後TVインタビュー)
カミングスは最後まで力強かった。ツール初登場のラック・ド・パイヨルで、大きく両腕を空に広げると、自身2度目のツール区間勝利に輝いた。所属チームのディメンションデータにとっては、マーク・カヴェンディッシュの区間3勝に続く今大会4勝目。また35歳ベテランにとっては今季4勝目で、うち3つが大逃げによる勝利だった。
「去年の区間勝利で、夢に手が届いた。そのあと、少し、自分を見失ってしまった。自問自答の日々だった。最終的に導き出した答えとは、あの時と同じようにやること。自分が勝った時のビデオを見るのは好きじゃないけど、自信をつけるために、ツールで勝った時のビデオはしょっちゅう見返しているんだ」(カミングス、公式記者会見)
マリア・ローザは、赤ゼッケンで1日を終えた。マイヨ・ジョーヌは、ニーバリの加速の犠牲になりながらも、マイペースで山を登り続けた。タイムやジャージを失うどころか、総合2位以下とのタイム差を、5分11秒から5分50秒へと突き放した。レース委員長ティエリー・グヴヌーのたっての希望である、「ヴォクレール風」ジャージ保守の日々に、もしかしたらヴァンアーヴェルマートは突入したのかもしれない。
「ジャージを守るためには、前で走った方がいいと考えた。プロトンもそれを許してくれた。それはきっと僕がクライマーではないし、ツール総合を勝てる選手でもないから。区間勝利なんて考えもしなかった。ただマイペースで山を登って、力尽きてしまわぬようにだけ気を付けた。でも明日はきっと辛いだろうな。でも、3日間ジャージを着られただけでも、すでに満足なんだ」(ヴァンアーヴェルマート、公式記者会見)
ベルギーのクラシックハンターに好意的だったメイン集団は、後方で淡々と隊列を走らせた。フルーム擁するスカイと、ナイロ・キンタナ抱えるモヴィスターが、集団コントロールの責任を負った。
アスパンの麓で、エフデジが猛然と牽引に取り掛かったこともあった。決して何かをカモフラージュするためではなかった。この時点ではそもそも、2014年ツール総合3位のピノは、「何かしてやろう」と本気で考えていた。
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