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ゴール前約2km、リッチー・ポートが加速すると、ようやくフルームは自ら対応に向かった。……ただし、昨季までの信頼できるアシストの後輪に飛び移った後は、見慣れた背中を見つめながら、走り慣れたスピードに乗っただけ。リッチーを蹴落としてさらに先を行くこともせず、かといって先頭交代をすることもしなかった。総合2位以下に、すでに1分47秒以上の差をつけているマイヨ・ジョーヌにとって、どうやら積極的にタイムを奪いに行くべき日ではなかった。
「リッチー以上に速く走ることが、可能だったとは思わない。それに戦術的に考えると、僕にとっては、自分から前に出る必要も、牽引する必要性も感じなかった。だってアルプス巡り4日間の、まだ1日目にすぎないんだから。なにより明日は、極めて重要なタイムトライアルが待っているし」(フルーム、公式記者会見)
ただポートの後輪で1日を終えたフルームは、それでも、ポート以外のあらゆるライバルからタイムを奪い取った。総合3位アダム・イェーツから8秒、総合5位ロメン・バルデから11秒。最終峠で苦しめられた総合2位のバウク・モレマからは、この日だけで40秒もの差をつけた。そして、なにより、フルームが最も恐れているキンタナを、新たに28秒突き放した。
「キンタナもアタックしようと試みていたけれど、もしかしたら、去年のような脚の調子ではないのかもしれない」(フルーム、公式記者会見)
過去2回、フルームに次いでツール総合2位に終わっているキンタナは、遠ざかっていくポートとフルームの後ろで、加速を試みたこともあった。しかし、努力の直後に、脚が止まった。さらにはイェーツやバルデ、アルやルイ・メインチェスといった……年下の選手たちから、次々に置き去りにされていった。今現在は3分27秒差の総合4位につけている。表彰台までも34秒と、遅れは決して小さくはない。
「僕はまだ26歳。僕よりも前に位置しているのは、非常に経験豊かな選手ばかり。マイヨ・ジョーヌ獲りの夢はこれで終わりではないし、この先まだ何年もトライを続けていく。それに、今からパリまでだって、まだ何でも起こり得るさ」(キンタナ、ゴール後囲みインタビュー)
またモレマ、ホアキン・ロドリゲス、ティージェイ・ヴァンガーデレンなど次々と総合候補が崩れていった一方で、ポートは大会前半のメカトラでの遅れを、じわじわと取り戻しつつある。現在は4分27秒差の総合6位。つまりキンタナからまる1分遅れ、表彰台までは1分34秒遅れとなるが……。
「本気で表彰台に乗りたい。まだパリ到着前に、難しいステージが3つ残っている。特に明日の登坂タイムトライアルは大好きなタイプ。きっと総合を左右する、大切なステージになるだろう」(ポート、ゴール後インタビュー)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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