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総合首位フルームの落車で揺れ、2位モレマの脱落で勢いづくメイン集団は、アスタナが猛然と加速を繰り返していた。落車からメイン集団に合流を果たしたばかりのポートも、チームメートを使って猛烈なスピードアップを図った。ナイロ・キンタナは用心深く、全ての不穏な動きに反応した。ゴール前3km、3位アダム・イェーツがギアトラブルで遅れ始めると、ますますバトルには熱がこもった。あらゆる動きに対して、スカイのアシスト、特にワウテル・ポエルスとセルジオルイス・エナオモントーヤは丁寧に対処し続けた。
ゴール前2km、アールが加速すると、ついにメイン集団のバランスが大きく崩れた。アレハンドロ・バルベルデがキンタナを伴い、アスタナリーダーに追随した。人生最後のツールを戦うホアキン・ロドリゲスが力の限り加速を続け、人生初めてのツールを戦うルイ・メインチェスも、思い切って飛び出した。フルームはじわじわと後退し、落車後の追走+加速合戦で力を使い果たしたポートは、完全に脱落した。
「こんな状況になってみて、すでに4分のリードを有していたことを、本当に嬉しく感じたね」(フルーム、表彰台裏インタビュー)
メイン集団は文字通りバラバラになって、2016年ツール最後の山頂フィニッシュへとたどり着いた。バルデ優勝の23秒後に、ロドリゲスとバルベルデ、メインチェスが雪崩れ込んだ。キンタナは26秒後に、アールは28秒後に駆け抜けた。ポエルスに支えられたフルームは、36秒後に辛い試練を終えた。ポートは53秒後に、イェーツは56秒後に、そしてモレマは4分26秒後に、それぞれ思い通りにはいかなかった1日を締めくくった。
つまりモレマは、タイムを絶望的なまでに失った。総合2位から10位まで陥落し、表彰台争いは「終わり」と自ら宣言を出した。イェーツは重大局面でバイク交換を余儀なくされたばかりか、チームメートのルーベン・プラサとの間にハンドスリング(2選手が手をつなぎ、一方が他方を前方へと投げ出す)があったとして、10秒のペナルティを課された。マイヨ・ブランは守ったが、総合表彰台からはバルデとキンタナに押し出された。
ただし、モレマとは違い、イェーツの表彰台争いは決して終わっていない。この日のスタート前は総合2位〜7位が2分16秒内にひしめいていたが、ステージを終えても、2位バルデ(4分11秒遅れ)、3位キンタナ(4分17秒)、4位イェーツ(4分46秒)、5位ポート(5分17秒)、6位アール(6分)が1分49秒内にぎゅっと詰め込まれている。しかもバルデとキンタナの差はわずか16秒でしかなく、キンタナにとっては3回目の総合2位さえ夢ではない。
もちろんフルームは、試練を乗り越えて、マイヨ・ジョーヌを守り切った。モン・ヴァントゥではブーイングを受けたけれど、この日は温かい拍手が沸き起こった。治療を受けるため、テレビインタビューも記者会見もキャンセルし、早急に山頂を立ち去った。ただ表彰台裏で、1つだけ短い代表インタビューが行われた。表情は極めて明るかった。
「パリまでまた1日近づいて、ほっとしている。でも、まだ優勝は、確定していない。今日は状況をひっくり返される可能性だってあった。ツールで静かに過ごせる日なんて存在しないんだ。明日もまた、厳しい1日となるだろう。パリ到着前最後の、踏ん張りを見せなくてはね」(フルーム、表彰台裏インタビュー)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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