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サイクル ロードレース コラム 2016年7月29日

ツール・ド・フランス第103回大会が無事閉幕、フルームが3度目の総合優勝を飾る

ツール・ド・フランス by 寺尾 真紀
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7月2日、ユネスコ世界遺産モン・サン・ミシェルで幕を開けたツール・ド・フランス第103回大会は、7月24日、シャンゼリゼの周回コースで3週間の旅を終えた。

ややのんびりと解体作業が行われていたシャンゼリゼ沿いや大観覧車前のスタンドも、この数日で姿を消した。銀色のフェンスだけは歩道際にまだ並べられたままだけれど、もしかしたらこれは、ツールのために特別に運んできたものではないのかもしれない。最終日にじりじりと照りつけていた陽射しは影を潜め、空気もどことなくひんやりとしている。まるでツールと一緒に、パリの夏も走り去ってしまったかのよう。

毎年ドラマが生まれるツールだが、今年も、様々なできごとがあった。後半に入ったあたりでは「毎日何も起こらない」という嘆息ともつかぬ言葉を時折聞いたが、決してそんなことはなかったように思う。総合2位以下は終盤にかなり入れ替わりがあったし、総合トップのクリス・フルーム(チームスカイ)もトラブルにおそわれた。最終成績でも、総合優勝者からロマン・クロイツィゲル(ティンコフ)まで10人が7分11秒差の中でひしめき合う、という史上まれに見る僅差だった。しかし、第8ステージのペイルスルド峠の下り(例のクルクルペダリング)でクリス・フルームが手に入れたマイヨジョーヌを真の意味で脅かすものがいなかった、といえば、確かにその通りかもしれない。難関山岳で爆発的な登坂力を見せつけることこそなかったが、横風が吹き荒れるモンペリエへの平坦ステージではペーター・サガン(ティンコフ)とゴールスプリントを競い、アルデッシュ峡谷に向かう難コースのTTでもアルプスの登坂TTでもライバルたちを突き放した。彼を守るスカイの城塞もこの上なく頑強だった。平地ではヴァシル・キリエンカ、ルーク・ロウ、イアン・スタナードが、峠にたどり着けば、ワウテル・ポエルス、ミケル・ランダ、ミケル・ニエベ、セルジオ・エナオが代わる代わるに高速でペースを刻んだ。ゲラント・トーマスもあらゆる場面でマイヨジョーヌに寄り添い、導いた。「スカイ・アルマダ(無敵艦隊)」はすべての地形において、ライバルたちにアタックの機会を与えなかった。

アルベルト・コンタドール(ティンコフ)が序盤の不運に見舞われることなくレースに残っていたら、リッチー・ポート(BMCレーシング)のパンク(第2ステージ)がチームメートやチームカーの助けを得られる状況で起きていたら、マイヨ・ジョーヌを巡る争いの様相も、また違うものになっていただろうか。答えはない。別の闘いを見るためには、また次のグランツールまで待たなくてはならない。残念なようでもあり、とてつもなく大きな楽しみでもある。

フルームの総合首位をめぐっての最大のハプニングはおそらく、急停止したモトにフルーム、ポート、バウケ・モレマ(トレック・セガフレード)が衝突したシャレ・レイナールへの上り(モン・ヴァントゥへのステージが短縮された第12ステージ)と、雨に濡れたビザンヌ峠の下りでフルームが落車した第19ステージだったのではないかと思う。モン・ヴァントゥへの道を自転車なしに駆け上っていく黄色いジャージ姿と並び、雨に濡れ、マイヨジョーヌの肩や、むき出しになった背中に血をにじませながら、ル・べテ(サンジェルヴェ・モンブラン)山頂に向かうフルームの姿は強く印象に残っている。

この第19ステージ、超級ビザンヌ峠からの長い下りにおいては、白線でスリップした総合リーダーだけでなく、勇敢にアタックしたピエール・ロラン(キャノンデール・ドラパック)や、今ツール区間表彰台2回のダニエル・ナバーロ(コフィディス、ソリュシオンクレディ)、荒天のアンドラ・アルカリスに向かう第9ステージを含む2区間優勝を挙げたトム・ドゥムラン(ジャイアント・アルペシン)らも激しく地面に叩きつけられ、ナバーロ、ドゥムランはリタイアを余儀なくされた。ここまで総合2位につけていたモレマは、大きな負傷こそなかったものの、複数回の落車で総合10位まで転落した。一方、同じビザンヌ峠でのロメン・バルデ(AG2R・ラ・モンディアル)の果敢なダウンヒルは報われた。ル・ベテ山頂で今ツールにおいてフランス勢初の区間勝利を挙げただけでなく、総合5位から2位まで一気に駒を進めた。落車のあと『9』(トーマスのゼッケン番号)のバイクで走りつづけたフルームは、ポエルスに付き添われ、バルデから36秒遅れでフィニッシュラインを越えた。それでもフルームと総合2位以下とのマージンは4分11秒。一つの判断ミス、一つの間違ったハンドルさばきで運命が変わりかねない自転車レースの危うさとともに、フルームの圧倒的な強さを感じたのもこのステージだった。

フルームとともに全日程を通して王者の風格を見せたのがサガン。第2ステージ、シェルブールの激坂ゴールを制し、自身初のマイヨジョーヌを着用。モンペリエへの第11ステージ、ベルン市内に向かう第16ステージと、区間ではトータル3勝を挙げた。第10ステージで首位に立ったポイント賞については、時には勝負に絡む有力な逃げに乗り、そして時には難関山岳ステージの中間スプリントポイントも狙い、5年連続のマイヨヴェール獲得。チームメート、ラファル・マイカの山岳賞獲得にも貢献した。21日間を通しての彼の闘志は高く評価され、大会を通してもっとも果敢に闘った選手に与えられる、スーパー敢闘賞も手に入れた。ちなみに、アルカンシェルのストライプをお披露目できたのは、マイヨジョーヌ(3日間)とマイヨヴェールを着用していない、5ステージのみだった。

ビッグなカムバックもあった。31歳の『マン島のミサイル』マーク・カヴェンディッシュ(ディメンションデータ)が、区間4勝。リオ五輪のために第17ステージをDNS(不出走)したため、4年ぶりのシャンゼリゼでの勝利に挑戦することこそ叶わなかったが、2010年、2011年(どちらの年も区間5勝)に迫る好成績を残した。のみならず、初日のスプリント勝利で、キャリアを通して初めてのマイヨジョーヌを獲得。くるりとしたまつ毛に縁取られた目を潤ませ、袖に手を通した。彼がまだ手にしていない栄誉は、8月に挑戦する五輪メダルのみ、ということになる。

ケニア生まれのフルームが総合優勝・区間2勝、マン島出身のカヴェンディッシュがマイヨジョーヌ着用・区間4勝、マージーサイド(イングランド北西部)出身のスティーブ・カミングス(ディメンションデータ)が区間1勝…英国勢にとってもう一つのグッドニュースは、2回目のツールにして、総合4位、新人賞を獲得したアダム・イェーツ(オリカ・バイクエクスチェンジ)の活躍だろう。イングランド北西部バーリー出身の23歳は、2つの個人TTでじりじりと後退し、結果的には総合3位のナイロアレクサンドル・キンタナから21秒遅れて表彰台こそ逃したが、もともと、まだ今年は総合上位を狙うつもりがなかった(ステージ上位狙い)という気負いのなさが功を奏したのか、GCライダー(グランツールで総合上位を狙う選手)としての可能性を大いに期待させる結果となった。今大会に出場はしていないが、双子のサイモン、新人賞レースではイェーツに次ぐ2位となった24歳のルイ・メインチェス(ランプレ・メリダ)とともに、次世代を担う主力選手へと成長していくのか、この先の走りに注目が集まる。

例えば第6ステージでは新城幸也(ランプレ・メリダ)が逃げに入ったが、連日のエスケープ(逃げ)のメンバーを見ても、14人の区間優勝者を見ても、いわゆる実力者、トップ選手の名前ばかりが並んでいる。21日間のリザルトをいま見返してみて、そのことに改めてはっとさせられる。モン・サン・ミシェルのスタートラインに並んだ198人が、そこでそれぞれの胸に誓ったように、力の限りを尽くして闘った結果がここに凝縮されているように思える。今はツール・ロスでちょっとぼんやりしていても、ブエルタ・ア・エスパーニャが始まる前に、もう一度、改めて最初から見返してみたくなるような大会かもしれない。

最後になるが、40年を超える伝統を絶やすことなく、21日間を闘い終えた選手たちを無事シャンゼリゼで迎えることができたこと。個人的には、このことに大きな敬意と感動を覚えた。今大会では、急なルート変更に安全対策が追いつかず観客がコース上の安全を脅かすケースが起きたり、フラムルージュが選手の上に落下したり、大会運営が批判され、面目を失う場面もあった。大会主催者はパリ・マラソンについても4月に開催を決行しているが、消えることのない脅威に屈することなく、厳重な警備・保安の対策をとり、ツール最終日のパリ開催を実現させたことに、彼らの矜持を感じた。

代替画像

寺尾 真紀

東京生まれ。オックスフォード大学クライストチャーチ・カレッジ卒業。実験心理学専攻。デンマーク大使館在籍中、2010年春のティレーノ・アドリアティコからロードレースの取材をスタートした。ツールはこれまで5回取材を行っている。UCI選手代理人資格保持。趣味は読書。Twitter @makiterao

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