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てっぺんを勝ち取ったのは、「激坂ハンター」と呼ばれる部類に属する人間ではなかった。適切な逃げ集団に乗って、適切なタイミングでアタックを打ったセルゲイ・ラグティンだった。連日のように、グランツール区間初勝利の喜びを分け与えている2016年ブエルタが、この日は35歳のベテランの夢をかなえた。後方では、ついに大物たちが、本格的な戦闘モードに切り替えた。ナイロ・キンタナが鮮やかな加速を披露して、マイヨ・ロホをつかみ取った。
追い風に背中を押されて、プロトンは猛スピードで走り始めた。スタートから173km地点までは、道がほぼ平坦だったことも手伝って、走行時速は常に45km/hを超えた。9km地点で11選手が飛び出すと、後方集団からは最大10分半もの差を奪い取った。なにより全長8.5kmの最終峠の入り口にたどり着いた時も、いまだ9分近いリードをつけていた。つまり逃げ切り勝利は、早々に決まった。
11分の1の栄光を求めて、ジーコ・ワイテンスが真っ先に飛び出した。ガティス・スムクリスとヨナタン・レストレポが反応し、いつしか後者のコロンビア人クライマーが単独先頭で壁を登り始めた。カチューシャのチームメートであり、後の勝者でもあるラグティンは、すぐに20秒ほど離されるも、決して焦らなかった。ほかの逃げ選手たちと協力しつつ、自分のペースを保ち続けた。
カンペローナの激坂は、ラスト3kmからが正念場だ。20%近い壁が延々と続き、決して勾配が緩むことはない。そこで、レストレポの脚は動きが鈍り、ついには次々と追い抜かれていった。一方で、そこまで淡々と一定リズムを刻んできた男たちが、パワー全開でペダルを踏みこんだ。特に今大会、すでに2勝を挙げているフランス勢が、この日も積極的だった。ペーリ・ケムヌールはフラムルージュで力任せに前に飛び出し、アクセル・ドモンはゴール前200mまで先頭に立っていた。
しかし、果敢なるスプリントでフレンチを蹴散らしたのは、ウズベキスタン生まれのロシア人だった。……それにしても、普通なら喜びを爆発させ、感激の表情を世界中に披露すべき瞬間に、ラグティンは頭を抱えた。信じられない、という様相で。
2003年の春にU23版パリ〜ルーベを勝ち取り、秋にはU23世界チャンピオンの座に上り詰めたラグティンは、2004年に颯爽とプロデビューを果たした。しかし「元」期待の新人の、13年間のプロ生活は、決して輝かしい勝利に彩られたものではなかった。ただウズベキスタン国内タイトルばかりが増えていった(ロード7回、タイムトライアル2回)。7度出場したグランツールでは、2011年ブエルタで総合15位に入る健闘も見せた。ただ、どうしても、区間勝利には縁がなかった。
ひたすら信じ続けて、35歳まで走り続けた努力が、ついに報われる日がやって来た。表彰台の上では思い切り笑顔を見せた。しかも、山岳賞の青玉ジャージ授与式にさえ、引っ張り上げられた。こうしてラグティンが今大会5人目の「グランツール初勝利」を祝ったのだとしたら、所属チームのカチューシャは「2016年全3大ツールステージ優勝」を成し遂げた今大会5チーム目となった。
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