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サイクル ロードレース コラム 2017年5月29日

【ハンマーシリーズ スポートゾーン・リンブルフ プレビュー】自転車界に革命を起こす?新生ハンマーシリーズはチームによるチームのためのレース

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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全力でハンマーを振りおろし、新しい世界への扉をぶち破る。そんな野心的な新形式レースが、この世に誕生した。6月2日から4日までの週末まるごと使って、オランダのリンブルフ地方で、ハンマーシリーズの記念すべき第1戦目が開催される。

革命的!とか、自転車レースの未来!と銘打たれた大会ではあるけれど、果たしてなにが新しいのだろうか。真っ先に上げられるのは、完全なるチーム戦であること。

一般的に自転車ロードレースとは、チームスポーツ形式で行われる個人競技、である。たとえば現行のグランツールはチーム単位での出場しか認められておらず、1チーム9人制・全22チームがスタートラインに並ぶ。ところが毎日のステージ勝者として表彰台に上がるのは1人=個人だし、3週間の果てに総合リーダージャージを勝ち取るのもまた、1人=個人。チーム全体としての健闘が公式に讃えられる機会は、チーム総合順位等、ほんのわずかしか存在しない。ただ世界選手権では1962年から1994年まで国別チームタイムトライアルが行われており、2012年にはトレードチームによるチームタイムトライアルとして生まれ変わった。現クイックステップが3回、BMCが2回、それぞれチーム世界チャンピオンの座に輝いてきた。


ハンマーシリーズはVelonの提唱で創設された。ヴェロンとは2014年秋、自転車界の新しいビジネスモデルを構築するために、11のUCIワールドチームが合同で出資して立ち上げた企業体のこと。つまりハンマーシリーズとは、チームの、チームによる、チームのための大会なのである。だからこそ、この大会で表彰されるのは、個人ではない。チームだ。今回のスポートゾーン・リンブルフ大会では、全16チーム(ワールドツアー12、プロコンチネンタル4)が、世界ベストチームの称号を追い求める。

新しい試みの2つ目が、3日間で、タイプの全く異なる3つのレースを争うこと。クライマー&パンチャー向けのハンマークライム、スプリンター向けのハンマースプリント、そしてハンマーチェイスという3つのチャレンジが盛り込まれた。各チームは7選手を大会登録し、それぞれのチャレンジに、脚質の適した5選手を送り込む。またハンマークライムとハンマースプリントで各チームにポイントが配分され、そのポイントランキングに従って、最後の大勝負ハンマーチェイスが執り行われる。

さらに新しいのは、見る側の視線に立って、様々な工夫が凝らされたこと。やたらと距離が長く、レース時間も長く、しかし現場でレース通過を見られるのは一瞬……のラインレースではない。3レースとも周回コースが使用されるから、コース沿道へ応援にやってきた観衆は、何度も白熱した走りを目撃することができる。しかも各レースは2時間ほどで終わるから、時差の大きい外国でも、スタートからフィニッシュまで集中して画面を見つめることができる。なによりハンマークライム&ハンマースプリントは、ポイントレース形式が採用されているから、各周回ごとに興奮とサスペンスが待っている!

ポイントレース形式、といえば、さいたまクリテリウムの前座レースでもおなじみ。各フィニッシュラインを通過するごとに、上位通過選手(ハンマーシリーズは10人)にポイントが与えられるというシステムである。各選手が獲得したポイントは、そのままチームのポイントとなる。だから例えばハンマースプリントでは、全ての周回で、なにもエース1人が毎周全速力を繰り出す必要はない。むしろ遠くからの逃げ、ライン直前のアタック、エースとサブの交互のスプリント等々を巧妙に使い分けて、着実にチーム内にポイントを重ねていけばいい。

最終日のクライマックス、ハンマーチェイスもまた、自転車界では類を見ない革新的なレースだ。いわゆるチームタイムトライアルのように、1チームずつスタートを切る方式ではあるけれど、かといってタイムを争う競技ではない。チェイス、という名の通り、前を走るチームを追いかけ、追いつき、追い越すことが目的となる。2日間のポイント合計最多のチームが真っ先にスタートを切り、それ以下のチームは、遅れを取り戻すために全力で追いかける。そして真っ先にフィニッシュラインを越えたチームこそが、ハンマーチェイスのチャンピオンとなるのだ。冬季種目バイアスロンのパシュート(追い抜き)でも使用されているこの形式は、なんとも奇遇なことに、ツール・ド・フランスが主催する女子レース、ラ・クルスの2017年大会でも個人戦として登場する予定……。

チームが威信をかけて主催する大会だからこそ、各チームは数々の有力選手をハンマーシリーズ第1回シリーズに送り込む。なにより、ジロ・デ・イタリアの直後という好タイミングを受けて、イタリアで活躍した選手が大挙してオランダに飛んでくる。その筆頭がオランダに史上初めてマリア・ローザを持ち帰ったトム・デュムランであり(しかもリンブルフの地元っ子)、初グランツール出場で区間4勝+ポイントジャージと大活躍したフェルナンド・ガビリアであり(しかもトラック出身でポイントレースの戦い方は熟知している)。同じくジロで区間勝利を上げたアンドレ・グライペルやカレブ・イーウェン、ヨス・ファンエムデンもスタートラインに並ぶ。

また、この春のクラシックで完全復活を遂げたフィリップ・ジルベールは、2012年に世界チャンピオンジャージを手にしたリンブルフでのハンマークライムに意欲を燃やしているはずだし、チームタイムトライアル世界制覇経験のあるBMCは、強脚ルーラーを揃えてハンマーチェイスに臨む。日伊チームのニッポ・ヴィーニファンティーニも、ダミアーノ・クネゴと小林海を筆頭に、自転車界初の試みにチャレンジだ。

最後にリンブルフ大会のレースフォーマットを簡単に紹介しておこう。

1日目:ハンマークライム

・マスドスタート
・全長7㎞の周回コースを11周(77㎞)、1周回に上り2ヶ所
・各周回のフィニッシュライン通過トップ10人(の所属チーム)にポイントが与えられる (1位10pt、2位8.1、3位6.6、4位5.3、5位4.3、6位3.5、7位2.8、8位2.3、9位1.9、10位1.5)
・3・7・11周回目はポイント2倍
・ポイント合計の最も高いチームが優勝
・トップ10チームにはボーナスタイムが与えられる (1位15秒、2位12、3位10、4位8、5位6、6位5、7位4、8位3、9位2、10位1)

2日目:ハンマースプリント

・マスドスタート
・全長12.4㎞の周回コースを8周(99.2㎞)、ほぼ平坦
・各周回のフィニッシュライン通過トップ10人(の所属チーム)にポイントが与えられる
・2・5・8回目のライン通過はポイント2倍
・ポイント合計の最も高いチームが優勝
・トップ10チームにはボーナスタイムが与えられる

3日目:ハンマー・チェイス

・1チームごとのスタート
・全長14.9㎞の周回コースを3周(44.7㎞)、ほぼ平坦
・2日間のポイントランキングに従って16チームを2グループに分ける
・ランキング1~8位チームはグループ1、ハンマーチェイス優勝とハンマーシリーズ第1回総合優勝を争う
・ランキング9~16位チームはグループ2、ハンマーチェイスグループ2の優勝を争う
・1位チーム(グループ2は9位)が最初にスタート、その後、2位、3位、と昇順で出走
・スタート間隔は、予め大会側が定めるフィックスタイムに、2日間で稼いだボーナスタイムの差が加えられる
・フィックスタイム:1位と2位:30秒間隔、2位と3位:25秒、3位と4位:20秒、4位と5位:15秒、以下全て15秒
・実際のスタート間隔は:フィックスタイム+(1つ上のチームのボーナスタイム-出走チームのボーナスタイム)
・グループ1で最初にフィニッシュラインを越えたチームがハンマーチェイス優勝&ハンマーシリーズ総合優勝!

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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