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濡れた路面で時速52.282㎞を叩きだし、16分04秒48の最速フィニッシュタイムを記録したのは、G、ことゲラント・トーマスだった。五輪金メダル2つ(団体追抜)、世界タイトル3つ(同)を誇る元トラックライダーは、8度目のツール・ド・フランス参戦で、生まれて初めてのグランツール区間勝利を手に入れた。フルームの3度のマイヨ・ジョーヌ獲りを支えてきた元アシストにとっては、生まれて初めてのマイヨ・ジョーヌだった。なにより生まれて初めて「総合エース」として挑んだ今5月のジロ・デ・イタリアを、不遇な落車事故で志半ばにリタイアしたあとの、美しきリベンジでもあった。
「ジロではとてつもない失望を味わった。人生最高の調子に達していたし、準備も万全だったからね。これまでも常に僕は不運に付きまとわれてきた。だから正直に言うと、ちょっと衝撃を受けてる。マイヨ・ジョーヌを手に入れたなんて、クレイジーだ。信じられない」(公式記者会見より)
総合系選手は僕よりもほんの少し慎重に走ったんだと思うよ……とシニカルに語りつつも、ツールでの総合争いについて尋ねられると「もちろん考えてる」と2016年パリ~ニース総合覇者は即答する。
「総合ライダーたちからリードを奪えたことは、僕にとってはとてつもないモチベーションになる。調子も良いしね。でも、あくまでも目標は、クリスをサポートすること」(公式記者会見より)
区間優勝トーマスだけでなく、区間3位元世界タイムトライアル王者ヴァシル・キリエンカ、6位フルーム、8位元世界ロード王者ミシャル・クフィアトコフスキーと、スカイはトップ10圏内に4選手を送り込んだ。ジロではあいかわらず歯車が合わなかったけれど、いつも通り、シーズンで最も大切なランデヴーへ向けては完璧に仕上げてきた。
「でもトニーか、それとも他の選手かに、記録は破られると確信していたんだけどなぁ」(公式記者会見より)
こんな風にトーマスを最も心配させたトニー・マルティンは、現役TT王者の証アルカンシェルをまとって、母国ドイツの観衆の前で、精一杯の疾走を行った。しかし8秒が足りなかった。「何が起こったのか理解する必要がある。おそらくラスト2㎞でパワーが落ちてしまった」(ツール公式HPより)と本人は語る。またトラック個人追抜で虹色ジャージをまとった経験を持つシュテファン・キュンクが、わずか5秒差で2位に甘んじた。
それでも白い新人賞ジャージに身を包み、独仏英を流暢に操る23歳は、あらゆる国からやって来た記者たちを喜ばせた。特に開幕国ドイツにとって――大会の祖国フランスにとっても――、自国の言葉を操る若者の活躍は幸いだった。
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宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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