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もちろん大会最初の平坦ステージであるから、スプリンターチームが簡単に手綱を緩めるわけはない。決して3分半以上のタイム差は許されなかった。いつしか降り出した大粒の雨も、メイン集団の脚を止めてはくれなかった。4人の背後では、エース級スプリンターたちが中間スプリントで本気でジャブを打ち合い(アレクサンドル・クリストフが集団先頭=5位通過)、来るべくフィニッシュラインでの真剣勝負に向けて猛烈に前進を続けた。
ただし、プロトンの勢いは、一旦削がれた。フィニッシュ手前30km。濡れた路面で、集団落車が発生したからだ。しかもマイヨ・ジョーヌ姿のゲラント・トーマスを筆頭に、クリス・フルーム、ロメン・バルデ、リッチー・ポートという総合有力勢が次々と地面になぎ倒された。不幸中の幸いか、ジャージのあちこちが破けたり、メカトラに悩んだりする選手も多かったけれど、誰もが再び走り出した。スプリンター軍団が後方に配慮して少し減速したおかげで、大部分の選手はすぐに集団復帰も遂げた。「G」は黄色いジャージをしっかり守ったし、フルームは「背中の皮をちょっと失う」程度で済んだ。
写真:終盤の集団落車
すなわち、この集団落車が、フィニーやオフレドの頭の中の、もしかしたら、という思いを強めた。実際にアメリカ人は「ラスト10kmから」信じ始めたというし、フランス人も「最後まで行けるかもしれない」と考えた。そのラスト10kmで、タイム差は50秒。両者は余計な駆け引きなどせずに、一心にペダルを漕ぎ、先頭交代を繰り返した。ラスト5kmで30秒差。いまだ2人に諦める気配はなかった。最終カーブを抜けた直後のラスト2kmで12秒差。そこからの直線で急速に距離は縮まっていく。万事休す。残り1kmフラムルージュの手前で、約202kmのエスケープは幕を閉じた。
ギリギリの吸収劇のせいで、スプリント隊列には大いに乱れが生じた。
「コントロール不能となり、誰もが自分の場所を確保しようと右往左往した」(記者会見)
こう語るキッテルも、ほぼ孤立状態に陥り、前方になかなか抜け出せなかった。それでも、ダイナミックで、パワフルな集団フィニッシュを実現させた。すでにツールで2回(2013・2014年)、ジロでも2回(2014・2016年)、「大会最初の集団スプリント」を制した経験を裏付けるように、今大会でも驚異的なスタートダッシュ力を披露した。
「調子は最高だし、非常に強いチームが僕のために働いてくれている。つまり、この先もいくつか勝ち取るチャンスがあるだろう、と考えている」(公式記者会見)
なにより個人としても、チームの一員としても、絶対に勝ちたい――いや、勝たねばならない――ステージで、並み居るライバルをまとめて後方へと置き去りにした。フィニッシュ直後には、思わず嬉し涙があふれてきた。
「とてつもなく大きな感動だ。たくさんの観客が訪れるだろうと予想していたけれど、あれだけの人々を実際に目にして、彼らみんなが再び自転車競技を愛してくれるようになったんだと思うと、すごく嬉しいね。デュッセルドルフを走ったのは、僕にとってはかけがえのない瞬間だった。泣いちゃったよ。絶対に忘れはしないだろう」(公式記者会見)
ボーナスタイムも10秒手に入れ、マイヨ・ジョーヌまで6秒差に接近した。同じくドイツ人として栄光目指したアンドレ・グライペルは3位、ジョン・デゲンコルプは13位に終わった。
また山岳エースイオン・イザギレの初日リタイアで、急遽作戦変更を余儀なくされたバーレーン・メリダは、新城幸也の献身もあり、ソニー・コルブレッリを6位に送り込んだ。「今後はスプリントと逃げ、その2本立てで区間勝利を狙って行く」(フィニッシュ後インタビュー)と、チームマネージャーのコープラントも前向きに気持ちを切り替える。「だからユキヤには、自分のカードを切れるチャンスがより多く巡ってくるだろう。そう、おそらく、とてつもなくたくさんね」
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宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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