人気ランキング

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

メルマガ

お好きなジャンルのコラムや
ニュース、番組情報をお届け!

メルマガ一覧へ

コラム&ブログ一覧

サイクル ロードレース コラム 2017年7月19日

混乱、落車、波乱、そして歓喜、嵐のように押し寄せては過ぎ去った前半戦

ツール・ド・フランス by 寺尾 真紀
  • Line


ツールは、アルプスの山間の町シャンベリから、長い移動を経て、ドルドーニュ流域のペリゴール地方へ。最初の9日の間にさまざまなドラマが起こり、デュッセルドルフのスタートラインに並んだ198人のうち、アレハンドロ・バルベルデ、マーク・カヴェンディッシュ、ゲラント・トーマス、リッチー・ポート、アルノー・デマール、ロベルト・ヘーシンクらトップ選手を含む18人が次々に姿を消した。カヴェンディッシュがリタイアする原因となったクラッシュについてはUCIの裁定でペーター・サガンの責任が問われ、アルカンシェルは、大会4日目にして姿を消した。

「すでに、何週間分もの出来事が起きたような感じだよ」

ドルドーニュでの休息日に取材陣に合流すると、レースを終えた前日夜から2日にわたっての大移動もあり、誰もが少し疲れた顔。その気持ちを映したようなグレーの空から、時折雨がぱらつく。水かさを増したドルドーニュが、雨に濡れた緑の谷間を流れていく。

休息日明けの第10ステージは、昨日に引き続いての曇り空の下でスタートした。レースが進むにつれて次第に空が明るくなり、ゴールのベルジュラックに着く頃には青空が広がった。

毎年顔を合わせているうちに顔見知りになった、セキュリティーの皆さん(グリーンのポロシャツがユニフォームなので、頭の中では「緑の皆さん」に置き換わっている)に迎えられながら、1年ぶりのツールのフィニッシュラインに立つ。クーラーボックスから冷たいお水を出してくれる赤いヴィッテルのテントも、体の前にも後ろにも大きなリュックを担いだソワニエが、テントに張られた呼び出し表(レース後のドーピング検査の対象となる背番号のリスト)を確認に来るのもずっと変わらない。プレス用の白いテントの中では各国のプレスが中継画面に見入っている。かなりの人口密度だが、みんな慣れたもので、それぞれの肩の間からちゃんとディスプレイを眺めている(左右に揺れると、後ろからちょっと文句を言われたりする)。
ヘリコプターの音がだんだんと大きくなり、ゴールスプリントが近づいていることを知らせる。コースでは、警察や保安要員が並んで人の鎖を作り、コース内の安全を確保する。



スプリントが終わった瞬間に、テント内で「誰だった!?」と顔を見合わせるゴールもあるが、今日の勝利は一目瞭然だった。フィニッシュラインを越えたキッテルが、少し遅れてフィニッシュラインを越えてきたチームメートらと笑顔で抱き合う。2013、2014年に続くツール4勝目だ。一方、グリーンのジャージをめぐる争いで2位につけていたマイケル・マシューズは得点圏外の13位に沈み、チームバスの横で、誰の目もはばからず声を上げて泣いた。その肩に腕を回し、ニキアス・アルントがずっと傍らに寄り添っていた。

日が明ければ、また次の戦いが待っている。ベルジュラックから、有名なモンバジャックをはじめとするワイン畑を眺めながらD道路(県道)を南下すること40分。スタート地のエイメは、中世に造られた『バスティッド(Bastide)』と呼ばれるタイプの町で、碁盤の目の町並みの中心には市場があり、それをぐるりとアーケードが囲んでいる。おとぎ話から抜け出したようなこのエイメの町からポーまではほぼ平坦で、昨日に続くスプリントステージとなる。

マチェイ・ボドナール、マルコ・マルカー、フレデリック・バカールトの3人が先行したレースでは、またもや落車が連発した。アスタナからはダリオ・カタルドとヤコブ・フルサングが落車し、カタルドがリタイアを余儀なくされた。コンタドールは半身に擦過傷を負ったものの、再びバイクにまたがって走り出した。ロメン・バルデとジョン・デゲンコルプは、何事もなかったようにまた走り出すことができた。



チームの絶対的リーダーであり、ボスであり、そして友人でもあるぺーター・サガンの不在は、ボドナールの果敢なアタックを生んだ。ゴール前23kmで一人前に飛び出したときには、まず無理だろう、というのがプレステントの大勢の見方だったが、残り10kmに近づき、ギャップはまだ40秒

というあたりで、これはもしかしたら、という空気が漂いだした。プレスだけでなく、他チームのスタッフも含めて、普段は無口にアシストに徹している職人タイプの選手が逃げ切りとなると、応援してしまうような、何となく心が沸き立ってしまうようなところがあるように思える。誰もが息を凝らすようにして画面に見入る中、トニー・マルティンが追走の先頭に立ち、ボドナールのアドバンテージをじりじりと切り崩していく。

フィニッシュラインを越えて立ち止まったボドナールは、ソワニエから手渡されたタオルで顔を覆ったまま、しばらく動かなかった。仲間たちをねぎらうためにチームバスに一度戻ったキッテルが、そのすぐ横を笑顔で通り過ぎていった。

いわゆる平坦ステージは、パリまでお預け。
ここからは山岳と、パンチャー向きのステージが続いていく。


☐ ツール・ド・フランス 2017
ツール・ド・フランス2017 7月1日(土)~7月23日(日)
全21ステージ独占生中継!
代替画像

寺尾 真紀

東京生まれ。オックスフォード大学クライストチャーチ・カレッジ卒業。実験心理学専攻。デンマーク大使館在籍中、2010年春のティレーノ・アドリアティコからロードレースの取材をスタートした。ツールはこれまで5回取材を行っている。UCI選手代理人資格保持。趣味は読書。Twitter @makiterao

  • Line

あわせて読みたい

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

ジャンル一覧

J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!

サイクル ロードレースの放送・配信ページへ