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サイクル ロードレース コラム 2017年7月21日

ツール・ド・フランス2017 第18ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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写真:集団の前に立つAg2r勢

後方プロトンでも、やはりヴァール峠で、進撃のラッパが鳴らされた。突如として、アージェードゥゼール・ラ・モンディアル(Ag2r)が主導権をむしり取ったのだ。総合3位バルデを支えるアシスト6人が、メイン集団前方で隊列を組み上げると、スカイ以上に凄まじい速度を強いた。巨大グループで「前方待機」していた2人も、後にリーダーの側に馳せ参じた。全てはわずか27秒差でしかないフルームを、追い落とすためだった。

総合ライダーの多くがアシストの枚数を減らしていく一方で、肝心のスカイのスーパーアシスト軍団には、願ったほどの打撃を与えることはできなかった。イゾアール突入時点でAg2rのアシストは4人、スカイのアシストも4人。Ag2r最後のアシスト、ヤン・バークランツが驚異的な登坂スプリントを披露し、総合4位ファビオ・アルを大いに苦しめた時も、フルームを孤立させるような奇跡は起こせなかった。しかもバークランツが渾身の仕事を終えると、スカイのアシスト3人が集団制御権を再び掌握した。

バルギルが加速を仕掛けたのは、残り6.5kmの、まさにこのタイミングだった。前夜に念願の総合トップ10入りを果たし、単純に「総合順位をさらに1つでも上げよう」と願ったのだった。総合で9分近く遅れるバルギルを、スカイも、バルデも、自由に行かせておいた。

「前方とのタイム差は知らなかったし、前に誰が走っているのかも知らなかった。ガロパンが先頭かな、と思っていたら、その先にまだアタプマが見えた。去年のツール・ド・スイスのあるステージを思い出した。僕は彼に続く2位に入った。だから、こんな風に、自分に言い聞かせた。『あの時のようには行かせない。絶対に奴を追い越すんだ』って」(バルギル、公式記者会見より)


写真:ゴールに向かって進むバルギル

ラスト1.5km、強い意志は叶えられた。コロンビア人を軽やかに追い抜くと、そのままイゾアールの山頂へと単独先頭でたどり着いた。まずは山岳賞7回のリシャール・ヴィランクを彷彿させるような「赤玉姿で右手の人差し指を天に突き上げるポーズ」を取り、それから2つ目のステージ優勝を祝うかのように、両手の人差し指を改めて天へと突き上げた。1勝目の時はホテルへ向かう車の中でうれし涙を流した感激屋が、2勝目は表彰台で感涙にくれた。

「僕は偉大なるチャンピオンではない。コンタドールのようにグランツールを勝てる選手ではないんだ。かといって平凡で退屈な選手でもない。実は自分の才能をあまり信じられなくなっていた。でも僕を信じてくれる人がたくさんいた。そして彼らはこう言ってくれた。今の好調さなら、ツールでは、きっと自分自身に驚かされると思うよ、と。うん、自分自身にびっくりしてる」(バルギル、公式記者会見より)

マイヨ・ジョーヌ集団では、ラスト4kmのミケル・ランダの加速から、状況も加速していく。フルームの山岳最終アシストにして、総合1分24秒遅れで5位につけるバスク人のアタックは、2012年大会でアシスト役のフルームが突然加速し、リーダーのウィギンスを挑発的に振り返った……あの事件とは、まるで違った。

「作戦はあらかじめ立ててあった。バルデや他の選手に穴を埋めさせ、力を使わせる作戦だった。前に2人走っていたけれど、区間勝利を獲りに行くことも考えた。でも、クリスから無線で呼ばれたから、指示通りに彼を待った」(ランダ、フィニッシュ後インタビューより)

なにより残り3kmを示すアーチの下では、満を持して、バルデが大きな一撃を下した。前日は4回も加速したが、今回は1回に全力を込めた。自転車界ではよくある「ブラフ」も使ってみた。どうやらずっと体調が悪いふりをしてきて、敵を油断させておいてから、後方から急襲をしかけたらしい。

ただし一瞬遅れただけで、フルームとウランはすぐに後輪へと張り付いた。その後に現れた下りゾーンでは、逆にフルームが伝家の宝刀を取り出し、くるくる高速ペダリングでライバルを突き放した。ルイゾン・ボベとファウスト・コッピ、歴史上の偉大なるチャンピオンの記念碑が建つ「カス・デゼルト」へ、黄色のジャージが単独で飛び込んだ。その先でランダと合流し、バルデとウランと共にフィニッシュを争った。

フルームとウランと同タイムでラインを越えたバルデにとっては、ただ4秒のボーナスタイムだけが慰めとなった。レース直後は山頂で地面に座り込み、随分と長い間、放心状態だった。その表情からは、苛立ちも読み取れた。バルデは総合首位から23秒差の2位につける。ウランが29秒差の総合3位に、ランダは1分36秒差の4位に続く。

この日の朝は「区間勝利が欲しい」と公言していたフルームは、2017年大会全ての山岳を抜け出した夜、改めてマイヨ・ジョーヌに袖を通しながら「すごくほっとしている」と語った。「TTではウランが最も警戒すべきライバル」と数日前から繰り返してきたが、実際は、パリ帰還の3日前に早くも4度目の総合優勝にほぼ王手をかけた。

「チームメートがいい仕事をしてくれたし、僕は最後までバルデの攻撃について行けた。だから、うん、すごくほっとしているんだ。土曜日のタイムトライアルは計算などしない。マルセイユで区間勝利をつかむために、全力を尽くす。でも、他の誰かが僕より速いタイムを出したとしたら……マイヨ・ジョーヌだけで満足するさ」(フルーム、公式記者会見より)

☐ ツール・ド・フランス 2017
ツール・ド・フランス2017 7月1日(土)~7月23日(日)
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宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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