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サイクル ロードレース コラム 2017年8月28日

ブエルタ・ア・エスパーニャ2017 第9ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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黄緑色のジャージが前線を彩ったのは、悲しい理由があった。前夜、キャノンデールに所属する全選手に、チーム存続の危機が告げられた。来季からの協力が予定されていたスポンサーが、投資の中止を決めたせいだった。2018年以降も契約の残るすべての選手には、新たな移籍先を見つける自由が与えられた。今ジロで区間勝利を挙げたピエール・ローランは2018年末まで同チームと契約が残っていたし、7月のツールで総合2位に入ったリゴベルト・ウランは、ほんの2週間前に3年の契約更新にサインをしたばかりだというのに……。

「昨日の夜は寝付けなかった。選手だけではなく、チームのスタッフたちも、もしかしたら職を失うことになるのかもしれないと考えると……。今朝チームバスで、みんなの意見は一致した。僕らがすべきことは、今まで以上に団結して走ること。だから区間のスタート直後から、勝利を目指して戦った」(マイケル・ウッズ、フィニッシュ後インタビューより)

キャノンデールの奮闘のせいで、先頭集団は思うようにリードが奪えなかった。だから平坦ゾーンが終わると同時に、マルク・ソレルとトビアス・ルドビクソンが思い切って再アタックを打った。フィニッシュ手前42kmに聳え立つ2級峠で、逃げの仲間たちを捨てると、自らのチャンスを追い求めた。しかし、明日のない者たちの捨て身の行軍に、最後まで抵抗し続けることなど不可能だった。フィニッシュまで25kmで1分差、10kmで30秒差へと縮まり……残り6kmで、ついに逃げには終止符が打たれた。

ツールですでに総合4勝を手にしているだけでなく、ツール→ブエルタの連戦を過去4回経験してきたフルームは、5度目の挑戦に向けて万全な準備を積んできた。この朝も2015年第9ステージのビデオを繰り返し見たという。つまり残り2kmでトム・デュムランの飛び出しを見逃し、追走にとてつもない体力を奪い取られ、区間2位に終わった時と同じ失敗を、繰り返さなかった。

しかも2年前は、アシストの力を借りることが出来なかったため、残り800mから自ら先頭に立って全力でペダルを回した。ラスト350mでデュムランを一旦は抜き去ったというのに、最終的にはスプリントで打ち負かされてしまった。だから今年は、ラスト700mの急カーブを抜け切るまでは、ミケレ・ニエベの背後でじっと体力温存に尽くした。そこから先も、ダヴィド・デラクルスの加速にも惑わされることなく、マイペースを守り続けた。

「ビデオで山道を改めて検証し、どのタイミングで加速すべきなのかを確認した」(フルーム、チーム公式リリースより)

そのタイミングはラスト550mでやってきた。いつものように突如として加速を切ると、強い向かい風の中、フルームは猛スピードで山道を駆け上がっていった。

ここ数日の戦いを引っ掻き回し、総合順位を着々と上げているアルベルト・コンタドールは――中間ポイントでもライバルを使ってフルームのボーナスタイム収集を阻止した――、瞬時に反応はするも、すぐについて行けなくなった。チームとチームメートのためにどうしても勝利が欲しいウッズが動き、やはり2年前には同じ激坂でマイヨ・ロホを失ったエステバン・チャベスは、夢中で追いかけた。ラスト300mで、ついにコロンビア人が、フルームの背中を捕らえかけた。

「チャベスが猛スピードで追いついてきた時に、『ノー、2015年みたいなのは嫌だ!』と思った。そんなことを再び許してはならないのだ、とひたすら考えながら、ラスト数百メートルは自分の持てる全ての力を出した」(フルーム、公式記者会見より)

幸いにもチャベスは、1ミリたりとも前に出ることはなかった。むしろフィニッシュ手前で後輪から引きはがすと、ペダルで4秒差を押し付けた。もちろんボーナスタイムの10秒も懐にしまい込んだ。区間2位に終わったチャベスも当然ボーナスタイム6秒を得ているから、つまり総合2位のチャベスに、わずかながら新たに8秒の差をつけたことになる。前日までの両者の28秒差は、36秒差に広がった。

「区間勝利のために走るよう求めるのは、チームメートの負担を増すことになると思った。だから単純に、マイヨ・ロホを守るために、今日は走ったんだ。でもキャノンデールが1日中働いてくれたおかげで、僕に勝利のチャンスが転がり込んできた」(フルーム、公式記者会見より)

最後まで奮闘したウッズは5秒差の区間3位に滑り込み、総合では9位から8位にひとつ順位を上げた。またコンタドールはフルームの12秒後で終え、総合タイムの遅れは3分32秒に広がった。ただし順位は17位から13位へと、着実に上げている。

一方で総合3位ニコラス・ロッシュ、4位ヴィンチェンツォ・ニーバリ、5位ティージェイ・ヴァンガーデレンは総合順位内の序列こそ守ったものの、タイムはそれぞれ14秒、14秒、19秒を失った(さらにボーナスタイム10秒分も加わる)。前夜まで秒単位に留めていたフルームまでの距離は、1度目の休息日を前に、ついに1分以上に開いてしまった。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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