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後方メイン集団でバーレーン・メリダの仲間たちが、猛烈な牽引作業に入っていたからだ。ほんの1.5kmほど上った後に、サイモンもまた、前方待機の配置に向かうことになる。ただ残念ながら、何かの役に立つことはなかったのだけれど。
「作戦というのは、時には上手く行くし、時には今日のように失敗してしまう。大切なのはトライすること」(チャベス、フィニッシュ後インタビューより)
なにしろバーレーンの39歳大ベテラン、フランコ・ペッリツォッティが、まずは延々3kmほどさんざん高速で引きずり回した。さらにゴール前11kmから、コンタドールとニーバリが順番に1度ずつ、とてつもなく大きな一撃を繰り出した。するとマイヨ・ロホは一切揺るがなかったが、総合2位チャベスが……力なく滑り落ちてしまったのだ。アダムやサイモンも例外なく遅れていった。
それどころか前日29秒を巧みに掠め取った総合3位ニコラス・ロッシュ&総合5位ティージェイ・ヴァンガーデレンのビーエムシー レーシングチームコンビも、2年前のブエルタ覇者ファビオ・アルさえも、一気に後方へと吹き飛ばされてしまった。運が悪いことに、総合6位ダヴィド・デラクルスはメカトラで自転車交換を余儀なくされ、2大王者の加速時にはすでに遅れていた。脱落組をごぼう抜きにして、必死で前を追いかけたけれど、最前列まで戻ることは不可能だった。
フルーム、ニーバリ、コンタドール、21世紀を代表する3人のグランツールライダーが、共に先を急いだ。総合順位アップの絶好機を逃したくない10位イルヌール・ザカリンや11位ウィルコ・ケルデルマン、さらには2014年ツール・ド・ラヴニール総合覇者ロペスモレーノを引き連れて。残り7.6km地点ではバルデとアタプマをも回収した。集団先頭ではニーバリ親衛隊のペッリツォッティがおとりで加速し、フルームの忠臣ミケレ・ニエベが潰しに走る、そんな駆け引きも見られた。
フィニッシュ手前2km。凍えるような強い横風が吹き付けていた。再びニーバリが鋭い加速を切った。するとここまで比較的集団内で目立たぬ存在だったロペスモレーノが、毅然として、前を追いかけ始めた。昨季までのチームメートをとらえると、素早くカウンターアタックを仕掛けた。
「この峠のことはよく知っていた。だから冷静でい続けることが出来た。フィニッシュまで1kmから1km半の難ゾーンまで我慢して、それからアタックしようと考えていたんだ」(ロペス、公式記者会見より)
狙いは、ずばり当たった。残り1.3kmで飛び立ったコロンビア製クライマーを、もはや邪魔をする者などいなかった。山頂では悠々と、グランツール初勝利を堪能した。故障続きで少々足踏みせざるを得なかった23歳のキャリアが、再び軌道に乗り始めたことを、高らかに証明してみせた。
ちなみに初めてのグランツール出場だった昨ブエルタは、第6ステージの落車で歯を3本折ってリタイア。昨11月にはトレーニング中の事故が原因で脛骨を折り、この6月にようやく復帰を果たしたばかり。今季ブエルタ開幕前には18日間しかレースを走ってこなかった。……とは言っても、18日の間に、2勝していることも忘れてはならない。若き日には母国での練習中に自転車泥棒に襲われ、片脚を刺されながらも自分のバイクを守りきったという(おかげでスーパーマンとあだ名されるようになった!)、なんとも勇敢なエピソードの持ち主でもある。
「第1週目はまだまだレースリズムが取り戻せていなかった。ここにきてようやく、脚がしっかり動くようになった。僕の好調さを見て、今日はチームが前にとどまる許可を与えてくれた。区間を取りに行け、って励ましてくれた。最高に嬉しいよ。このままさらに調子を上げていけるといいな」(ロペス、公式記者会見より)
区間勝者から14秒後、きっちりライバルをマークし続けたフルームが、ニーバリとケルデルマンと共にフィニッシュした。この日は「1秒」にこだわって、区間2位のボーナスタイムさえライバルに渡そうとしなかった(フルーム6秒、ニーバリ4秒収集)。31秒後には「勝てなかったけど久しぶりに走る喜びを感じた」というバルデやコンタドール、ザカリンが続いた。アスタナのチームリーダーであり、ロペスによれば「今後もあくまで彼がボス」であるアルは、1分32秒遅れで終えた。
「ロペスが飛び出した時点で、僕にとって最も大切なことは、ニーバリを監視することだった。チャベスはすでに脱落していたし、コンタドールも限界ギリギリのようだった。だからただニーバリから目を離さぬよう、集中し続けた」(フルーム、公式記者会見)
前区間終了時点で総合36秒差につけていた2位チャベスは、フルームから1分51秒を失い、同じく36秒差につけていた3位ロッシュは、なんと4分03秒も失った。BMCのチームメート、ヴァンガーデレンは少し被害を食い止めたものの、それでも3分12秒も遅かった。
つまりフルームの1分以内には、誰もいなくなった。総合2位に浮上したニーバリは1分19秒遅れ。3位に後退したチャベスは、さらに1分以上離れて、2分33秒遅れ。むしろ現時点では、総合3位争いのポジションにこそ、4位デラクルズ、5位ケルデルマン、6位ザカリン、7位アル、8位マイケル・ウッズと1分以内に6人がひしめいている状態だ。
いよいよ現役生活も残すは10ステージとなったコンタドールは、トップ10圏内に突入した。つくづく3日目の体調不良が悔やまれる。あの日2分33秒を失っていなければ、単純計算では、ニーバリと3秒差の総合3位につけていられるはずだった。現実はフルームから3分55秒遅れの、総合9位である。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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