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後方からはライバルたちだって追いかけてくる。残り4kmで差が1分20秒に広がると、総合3位の座を渡したくない者たちが動き出した。3位ケルデルマンよりも、むしろ表彰台までわずか12秒につける4位イルヌール・ザカリンが、せわしなくスピードを上げた。体を痛めたエースをかばうように、フランコ・ペッリツォッティがなんとか集団を適度な速度で抑えていたのだが……、残り2kmでとうとうニーバリがついていけなくなった。肝心のケルデルマンも直後に力尽きたが、「最後はケルデルマンがどこに行ってしまったのかまったく分からなかったけれど、コンタドールへの対応が忙しくてそんなことどうでもよかった」(チーム公式リリース)というザカリンだけが夢中でタイム差を埋めにかかった。
なによりマイヨ・ロホ姿のクリス・フルームが、最終アシストのワウテル・ポエルスの強烈な牽引に連れられて、ぐいぐい距離を縮めてきた。
「コンタドールに追いつくために僕ら全力を尽くした。僕のためじゃなくて、ポエルスを勝たせてあげたいと思ったから」(フルーム、フィニッシュ後TVインタビューより)
残り1kmで、後方に対するリードは、30秒程度しか残っていなかった。コンタドールの総合表彰台の望みは、もはや断たれた。そもそもグランツールでは表彰台のてっぺん以外経験したことがない。キャリアの終わりに2番目や3番目の台に乗るより、頂点しか知らずに潔く立ち去ったほうが、むしろコンタドールらしいかもしれない。しかし区間優勝だけは、絶対に逃すわけにはいかなかった。強風吹き荒れる山頂目指して、持てる力を全て振り絞った。
「このブエルタは多くの人々の記憶に留まることだろう。僕が幾度となくアタックを仕掛けたこと。何も起こりそうもないどうってことない地形で、僕が勇敢に攻撃を繰り返したこと。こんなことを人々はずっと憶えていてくれるはずだ」(コンタドール、フィニッシュ後TVインタビューより)
きっとおなじみのジェスチャーも、ファンは永遠に忘れない。山頂のフィニッシュラインに真っ先に飛び込んできたコンタドールは、胸を軽く2回叩き、そして、人差し指を前方へと突き出した。2008年、ここアングリルで生まれて初めてのブエルタ区間勝利を手にし、生まれて初めてブエルタの総合リーダージャージを身にまとったコンタドールが、2017年9月9日、キャリア最後の優勝を手に入れた。ジロ総合3勝(後に1勝剥奪)・区間2勝(後に2勝剥奪)、ツール総合3勝(後に1勝剥奪)・区間3勝、ブエルタ総合3勝・区間6勝という素晴らしく、そして難解だった自転車人生の、見事な幕引きであった。
「素晴らしいキャリアの終わり方だ。ブラボーと言葉を贈りたい。コンタドールに本人には『君に苦しめられるのもこれで最後だな』って言ったんだけど(笑)」(フルーム、フィニッシュ後TVインタビューより)
コンタドールの17秒後に、ポエルスと共にステージを終えた英国紳士は、ライバルを絶賛した。もちろんいつもどおり丁寧にチームメートに感謝の言葉を述べ、そして自らの快挙に歓喜した。ツール・ド・フランスの総合を4度勝ち取ってきた王者が、6度目の挑戦で(うち総合2位3回、総合4位1回、途中棄権1回)、ついに総合優勝を手に入れた。1963年ジャック・アンクティル、1978年ベルナール・イノーに次ぐ史上3人目のツール&ブエルタ同一年制覇であり、1995年に開催時期が春から秋へと移行してからは、文字通り史上初の仏西ダブルツール達成となる。また2008年にコンタドールがジロ&ブエルタを勝ち取って以来の、年間2グランツール制覇の快挙であった。
「ダブルツールを達成できたなんて、信じられないような気持ちだよ。特にツール→ブエルタという連覇は、今まで誰ひとりとして成し遂げたことがない。とてつもないことだ!」(フルーム、フィニッシュ後TVインタビューより)
ザカリンは35秒遅れと健闘し、山の麓で頑張りすぎたケルデルマンはさらに46秒遅れて山頂へたどり着いた。2人の立場は入れ替わり、5日後に28歳の誕生日を迎えるザカリンが初めてグランツール表彰台に上る権利をつかみとった。ニーバリは区間首位から51秒後に1日を終えた。コンタドールと並ぶ現役でただ2人の3大ツール全覇者は、ジロ総合3位&ブエルタ総合2位で2017年を締めくくった。
大会3日目からマイヨ・ロホを守り続けたフルームと同じく、大会3日目から青玉ジャージを頑なに着続けたダヴィデ・ヴィッレッラは、最後まで山岳賞首位を死守した。グルペットでアングリルを上りきったマッテオ・トレンティンは、最終21ステージに緑ジャージ奪還を誓う。首位フルームまでのポイント差は26pt。つまりフルームがポイントを1ptも取らないという前提条件で、トレンティンは中間ポイントで上位3位以内に入り(4pt、2pt、1pt)、フィニッシュラインでは今大会4つ目の区間優勝(25pt)を上げなければならない。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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