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「僕はこれまで何度もこういう逃げを経験してきた。予想の裏をかくサプライズもいくつか成功させてきた。もちろん2014年のパリ~トゥールもそのひとつ。なによりあの日は、ヴォクレールと一緒に走ったことで、たくさんのことを学びとったんだ」(ワライス)
そう、4年前の落ち葉のクラシックでは、0km地点で逃げ出すと、237kmもの大逃げを成功させた。背後から迫ってくる集団を、鮮やかに交わしきった。最後まで共に先を急いだのは、「逃げ」スペシャリストならぬ、「逃げ切り」スペシャリストのトマ・ヴォクレール。ちなみに当時ほぼ無名のワライスは、残り1kmから大先輩の背中にひたすら張り付き、一騎打ちスプリントをさらいとった。キャリアで通算20日間もマイヨ・ジョーヌを着用してきた大スターは腹を立て、表彰式に姿を表さなかった。
ようやく差が1分を切った頃には、フィニッシュまで10kmに迫っていた。メイン集団は一致団結するどころか、もはや秩序なきカオスな状態に陥っていた。焦って抜け駆けアタックを試みる者や、諦めて力尽きる者たちが続出し……。
一方で残り7km、ついに前線はワライスとビストラムの2人だけになった。しかしワライスが2014年にパリ~トゥールを制したのだとしたら、ちょうど3週間前に、ビストラムは世界選手権U23ロードレースを独走で勝ち取っている。実力者の2人が、決して脚を緩めることはなかった。
「最後の15kmは全力を尽くした。僕らは強かった。プロトンをまんまと手玉に取ったのさ」(ビストラム)
ラスト1.5kmに差し掛かった時に、チームカーから無線でいまだ20秒近く保っていることを知らされたワライスは、大きな賭けに出ることに決めた。先頭後退を一切放棄し、ビストラムの後輪にピタリと入り込んだのだ。以降、一度たりとも、後ろを振り向かなかったなかった。ただ毅然と前だけを見つめ続けた。
「ビストラムがスプリントに強いことは知っていた。だから上手く立ち回らなきゃならなかった。敵の背後をとって、ただフィニッシュラインだけに集中した。ひたすら自分にふさわしいタイミングが訪れるのを待ち続けた。負けることを恐れはしなかった」(ワライス)
先手を取られたビストラムは、もはや背後をしきりに気にする以外に選択肢はなかった。最終1kmは軽い上り坂だったから、おそらく、後方から迫ってくるメイン集団が見えたはずだ。もちろんペーター・サガンとエリア・ヴィヴィアーニが、残り500mでロングスプリントを切り、ものすごい勢いで駆け上がってくる姿も!
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