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では、なぜそれが可能だったのだろうか。多くの理由があると思うが、もっとも大事な要因のひとつが科学的アプローチと最先端テクノロジーの活用だ。これらは、ここ数年で目覚ましく発展、浸透した。
シアトル郊外に「ドライブライン・ベースボール」という運動力学デベロップメントの総本山とも言える私設トレーニングセンターがあり、そこでは最先端電子デバイスを活用した解析と対策が行われている。当初はごく一部のヲタク系?選手のみが注目するところだったが、近年はその効果が評価され、門を叩く選手が絶えない。ここでの研究、トレーニングの成果が目覚ましかった選手の代表例としては、昨季ダルビッシュを抑えサイ・ヤング賞を獲得し、オフにFAとしてドジャースと3年総額1億200万ドルという超大型契約を結んだトレバー・バウアーが挙げられる。
そして、菊池も散々だった初年度はオフにはここでトレーニングを積み、フォームを見直し、配給パターンを研究したという。その効果は明らかだった。前述の通り昨季の防御率は19年と大差ないが、FIP(運・不運に左右されがちな要素を配した擬似防御率)では3.30と素晴らしい数値を残したのだ。これが偶然ではない証拠として、昨季の菊池は、まずフォーシームファストボールの平均球速が92.5マイルから95マイルへ劇的に向上。9イニングス平均の奪三振も凡庸な6.5から十分合格点の9.0へ、同被本塁打も悲劇的な2.0から0.5という卓越した数値へ目覚ましく改善されている。
この変身には配球の変化も寄与している。初年度はフォーシームファストボール&ブレーキングボール(カーブやスライダー)のコンビネーションが中心だったが、2年目はカッターも多用した。打球のグラウンドボール(ゴロ)率も2年目は高くなった(被弾が減ったことと相関性、因果関係がある)のもこのためかもしれない。
要するに昨季のプロセス指標の改善は偶然ではなく、科学的分析とそれに基づいたトレーニングの賜物で、「ひたすら体をいじめ抜いた」というような精神論的鍛錬とは全く異なるということだ。これにより、過去の「日本人MLB投手成功の法則」に逆らうことが可能になったと言える。
今季はビジネス的にも菊池にとって、とても大切なシーズンだ。冒頭記触れた菊池とマリナーズの契約は、最初の3年間は合計4300万ドルだが、2021年のオフに球団は翌年以降の4年6000万ドルでの延長を選択できる。球団がこの権利を行使しなかった場合、菊地が得られるのは1年1300万ドルの契約の選択権のみだ。今季の評価はとても、大切なのだ。
文:豊浦彰太郎
豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]
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