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これは、長期にわたりこの事業に携わる経営者と、1年1年が勝負で、今季が流れると競技者生命に関わる者も少なくない選手側との立場の違いがあるので、「強欲な経営者と虐げられる選手」という単純な善悪構造を当てはめるのは危険だ。しかし、譲歩しなければ交渉は決裂し今季は開催されない、という最悪の展開に陥る恐れがあることは、オーナーたちもわかっているはずだ。
今回の労使対立に大義など双方にないが、少なくとも表面上は「少しでも多く試合をしたい選手となるべくやりたくない、あわよくばシーズンを流してしまいたいオーナー」という図式になってしまったことは事実だ。どちらかと言えば、オーナー側が悪役になっていると言えよう。
思うに、マンフレッド・コミッショナーや各球団のオーナーは、このような姑息な交渉手段を用いずに、最初から「無観客では開催しない」と宣言すべきだったと思う。「無観客では儲からん」というのが本音なのだが、ベースボールの興行としての本質を踏まえるなら、「観衆に見守られてこそプロスポーツ」という大義名分もなくはなかった。その哲学に立脚するなら「選手や観客の安全を完全には担保できないので、今季は開催を見送る」という主張もそれなりに説得力を持てたと思う。事実、労使対立ばかりに注目が集まるが、感染拡大の懸念が払拭されたわけではないのだ。
それでもそうしなかったのは、自らの利害でシーズンをキャンセルするのではなく「努力はしたが選手会が聞き入れなかった」という形にしたかったからかもしれないし、「無観客でもやれ」と放映権料を握るテレビ局からのプレッシャーがあったのかもしれないし、球団ごとに思惑が異なり一枚岩でなかったから、かもしれない。
文:豊浦彰太郎
豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]
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